導入が努力義務とされた「勤務間インターバル」の導入のポイントと留意点は?

「労働時間等の設定の改善に関する特別措置法」の改正により、2019年4月から「勤務間インターバル」の導入が事業主の努力義務となります。

「勤務間インターバル」とは、前日の業務終了時間から翌日の業務開始時間まで一定以上の休息時間(インターバル)を確保することで長時間労働を防止し、ライフワークバランスの向上を図る制度です。

「働いた時間」ではなく「働いていない時間」に着目して長時間労働を抑制を図ろうとする点において、従来にはなかった新しい労働時間制度と言えます。

なお、例外として、トラック、バス、タクシーなどの自動車運転者は、「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」によって従来から休息時間による労働時間規制が行われています。

EUの勤務間インターバルと日本の勤務間インターバルの違い

勤務間インターバルの先駆けともいえるのがEU(ヨーロッパ連合)です。

EU加盟国では、1993年に制定されたEU労働時間指令によって、

  • 24時間につき最低連続11時間の休息時間を与えること
  • 始業時刻までに休息時間を確保できない場合は勤務開始時刻を繰り下げること
  • 始業時刻から勤務開始時間までは通常の賃金を支払うこと

が企業に義務付けられています。

一方、日本の勤務間インターバルは、事業主の責務として「健康及び福祉を確保するために必要な終業から始業までの時間の設定」をすることが努力義務として定められたもので、休息時間の長さや繰下げ時間に対する賃金の支払いなどについては何も規定がされていません。

§労働時間等の設定の改善に関する特別措置法

(事業主等の責務)
第2条 事業主は、その雇用する労働者の労働時間等の設定の改善を図るため、業務の繁閑に応じた労働者の始業及び終業の時刻の設定、健康及び福祉を確保するために必要な終業から始業までの時間の設定、年次有給休暇を取得しやすい環境の整備その他の必要な措置を講ずるように努めなければならない。

(2項以下 略)

したがって、どのような「勤務間インターバル」を導入するかは各企業において労使当事者の判断に委ねられることになります。

勤務間インターバルの制度例

日本における勤務間インターバルの制度例としては、主に次のようなものが考えられます。

  1. 始業時刻を繰り下げた日について終業時刻は繰り下げない(繰下げ分の賃金を支払う)
  2. 始業時刻を繰り下げた日について終業時刻は繰り下げない(繰下げ分の賃金を支払わない)
  3. 始業時刻を繰り下げた日について終業時刻も繰り下げる
  4. 就業時間の制限のみを行って始業時刻の繰り下げを行わない

1が、EUで導入されている勤務間インターバルです。

始業時刻を繰り下げる一方で終業時刻は繰り下げないため、始業時刻を繰り下げた時間分だけこの日の所定労働時間は短くなります。

したがって、長時間残業を行わせた場合に翌朝の労働義務が免除されて賃金支払義務のみが生じることになり、会社に対する残業抑止力が最も大きい制度と言えます。

一方、労働者からすれば翌日に行ってもよい業務を残業として行うことで所定賃金と残業代の二重取りが可能となるため、ダラダラ残業を誘引したり増長したりする可能性があります。

2は、残業代(原則として125%)の一部が不就労時間の所定賃金(100%)と相殺されるため、人件費負担の増加が抑制されます。

労働者にとっては、相殺によって残業代の25%部分のみが支払われて金銭的メリットが小さくなるため、ダラダラ残業が問題となっている会社にとっては抑止力となる可能性がありますが、労働者の「働く権利」を抑制することになる点についても検討や配慮が求められます。

3は、始業時刻を繰り下げた分だけ終業時刻も繰り下げるもので、所定労働時間の短縮や労働義務の免除は生じません。

翌日の始業時刻近くに及ぶような極めて長い残業があった場合などは、翌日の終業時刻が大幅に繰り下げられてさらに次の日の始業時刻の繰り下げが必要となるなど、勤務時間の不規則化を招くおそれがあることに注意が必要です。

4は、始業時刻の繰り下げを予定することなく、就業できる時間をあらかじめ制限することで一定の休息時間を確保する方法です。

始業時刻の繰り下げが「事後的な対策」とすれば、就業時間の制限は「事前的な対策」と言えます。

始業時刻の繰り下げによる休息時間の確保が本来の勤務間インターバルとなりますが、国は、勤務間インターバルを新規導入又は拡大した中小企業に対して導入費用の一部を助成する「時間外労働等改善助成金 (勤務間インターバル導入コース)」の支給要領の中で、次の場合は「既に勤務間インターバルを導入している事業場」として取り扱うこととしていることから、日本においては、就業時間の制限によって休息時間を確保する場合も勤務間インターバルの範囲に含まれると解されます。

  • 就業規則等に、「一定時刻以降の所定外労働を禁止し、かつ一定時刻以前の勤務を認めない」旨の定めがあることにより、一定時間のインターバル時間が確保されている場合
  • 労働条件通知書や就業規則等の規定により、所定外労働を行わないとされていることで、一定時間のインターバル時間が確保されている場合

休息時間を与えない場合の「例外規定」を定めることは可能?

前述の通り、EUの勤務間インターバルは法律で詳細が決められて企業に義務付けられているのに対し、日本の勤務間インターバルは制度の詳細については法律上何も決められておらず、導入の努力義務が課せられただけです。

そのため、休息時間を与えずに勤務させることができる場合や手続き方法などを定めた「例外規定」を設けて、一定の要件に該当する場合には休息時間の確保をせずに労働させることができる制度とすることも可能です。

ただし、時間外労働等改善助成金 (勤務間インターバル導入コース)の支給を受けようとする場合は、原則として災害その他避けることができない場合の例外規定を定めることしかできず、業務繁忙の場合には休息時間を与えない場合があるなど、会社が恣意的に適用できる例外規定を定めた勤務間インターバルは、例外規定を適用した場合でも9時間又は11時間の休息時間を確保する場合は除いて助成金の支給対象とはなりません。

休息時間を「確保する制度」ではなく「代替措置を講じる制度」は?

法改正に伴って発出された通達(平成30年9月7日 基発0907第12号、雇均発0907第2号)では、勤務間インターバルは「前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に一定時間の休息を確保すること」とされており、会社は、始業時刻の繰り下げ等によって一定の休息時間を確保することが求められています。

ただ、勤務間インターバルには該当しないとしても、「休息時間を確保できない場合に代替休暇を与える」「一定の休息時間を確保できない日が月○日以上の場合に医師の面接指導を実施する」等、休息時間を基準に健康及び福祉を確保するための代替措置を講じる制度も勤務間インターバルに準じて長時間労働の抑制やワークライフバランスの向上に寄与するものであり、法改正の趣旨に合致した望ましい対策と言えるでしょう。

それぞれの会社の状況に応じて最も適した勤務間インターバルを検討してください。

休息時間を確保できなかった場合の指導はどうなる?

勤務間インターバルは任意の制度であるため、勤務間インターバルを導入しなかったとしても罰則に問われることはありません。

また、勤務間インターバルを導入している企業が労働者に所定の休息時間を与えなかったとしても、休息時間を与えていないこと自体は法違反とはならないため罰則に問われることはありません。

例えば、就業規則で9時間の休息時間を確保することを定めた企業において、労働者に8時間の休息時間しか与えずに勤務をさせたとしても、法違反として罰則に問われることはありません。

ただし、労働基準法の改正により特別条項付き36協定を締結する際には健康確保措置を定めることが要件とされましたが、休息時間を確保することを健康確保措置として定めたにもかかわらず所定の休息時間を与えていない場合には指導対象になると考えられます。

また、民事上は労働契約違反としての問題が生じることなりますので、所定の休息時間を与えることなく勤務を行わせることになる業務命令は“合理的な理由のないもの”として無効となり、当該命令に従わなかったことを理由に懲戒等の不利益な処分を科すことは認められません。