2018年4月18日、「東京駅構内の自動販売機で売り切れが続出している」とのニュースが報じられました。

自動販売機大手「ジャパンビバレッジ東京」で自動販売機への補充業務を行っている社員10数名が、労働組合「ブラック企業ユニオン」に加盟し、法律に従って、休憩を1時間取得し、残業を行わずに定時で仕事を切り上げる「順法闘争」を行っているためです。

2018年5月3日には、社員7名が、自動販売機への補充業務を行わないストライキも実施しています。

順法闘争やストライキが行われることになった原因の一つに、「事業場外みなし労働時間制」を違法に適用されて、残業代が支払われないまま長時間労働を強いられていることがあります。

今回、「事業場外みなし労働時間制」の適用にどのような問題点があったのでしょうか。

事業場外みなし労働時間制の概要

「事業場外みなし労働時間制」は、労働基準法第38条の2に規定されています。

§労働基準法

(事業場外みなし労働時間制)
第38条の2 労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。ただし、当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合においては、当該業務に関しては、厚生労働省令で定めるところにより、当該業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなす。

2 前項ただし書の場合において、当該業務に関し、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定があるときは、その協定で定める時間を同項ただし書の当該業務の遂行に通常必要とされる時間とする。

3 使用者は、厚生労働省令で定めるところにより、前項の協定を行政官庁に届け出なければならない。

事業場外みなし労働時間制は、労働者が、業務の全部または一部を事業場外で従事し、その間の労働時間を算定することが困難である場合に、所定労働時間労働したものとみなす制度です。

ただし、その業務を遂行するために、通常所定労働時間を超えて労働することが必要である場合には、業務遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなします。この場合において、労働者の過半数代表者と労使協定を締結して所轄労働基準監督署長に届け出た場合には、労使協定で定めた時間労働したものとみなします。

端的に言えば、「労働者がどこで何をやっていたか確認ができないのであれば労働していたものとみなす」制度と言えます。

事業場外みなし労働時間制のポイント

整理すると、事業場外みなし労働時間制のみなし方には、次の3つのケースがあります。

  1. 所定労働時間」の労働をしたものとみなす(原則)
  2. 通常所定労働時間を超えて労働することが必要である業務の場合には、「業務遂行に通常必要とされる時間」労働したものとみなす
  3. (2)において、労使協定でみなし労働時間を定めた場合は、「労使協定で定めた時間」労働したものとみなす

(1)が原則のみなし労働時間となりますが、実務上は、(2)によってみなされるべきケースが多いでしょう。

同制度は、会社が導入するかどうかではなく、「事業場外で業務に従事」し、「労働時間を算定し難い」という要件を満たす場合に、法律上当然にみなされます。

逆に、要件を満たしていない場合には、会社が導入すると言っても事業場外みなし労働時間制の適用はできません。

本来、事業場外みなし労働時間制は、「パチンコにでも行っていたんじゃないか」などと言って、会社の外でちゃんと仕事をしているかどうかわからないと理由で賃金を支払わないことを防止するための制度です。

もちろん、本当にパチンコに行っていたのであれば、会社はその時間の賃金を支払う必要はありませんが、その立証責任を会社側に求めている規定とも言えます。

みなし労働時間の対象となる労働時間についても注意が必要です。

上記(1)の場合は、事業場内で行った業務も含めて所定労働時間の労働を行ったものとみなしますが、(2)(3)の場合は、事業場外で行った業務のみがみなし労働時間の対象となります。

この場合、事業場内で行った業務の労働時間は別途把握する必要があり、事業場内の労働時間(=実働時間)と事業場外の労働時間(=みなし労働時間)の合計が、その日の労働時間として取り扱われます。

事業場外みなし労働時間制を適用すること自体が不適切に

ジャパンビバレッジ東京のケースでは、どのような点が問題と考えられるでしょうか。

まず挙げられるのが、事業場外みなし労働時間制を適用すること自体の問題です。

事業場外みなし労働時間制が適用されるには、事業場外で業務に従事しているだけでは足りず、「労働時間を算定し難い」ことが必要です。

厚生労働省の通達(S63.1.1基発第1号・婦発第1号)は、次のような場合は事業場外みなし労働時間制の適用はないとしています。

  1. 何人かのグループで事業場外労働に従事し、その中に労働時間管理者がいる場合
  2. 無線やポケットベル等によって随時使用者の指示を受けて労働する場合
  3. 訪問先や帰社時刻等の具体的指示を受けて、その指示通りに業務を行う場合

自動販売機の補充業務は、指定の自動販売機を巡回して業務を行ういわゆるルートセールスであり、通常、通達の【C】の場合に該当します。

また、専用の携帯端末などを使用していることもあるようですので、労働時間(いつどこの自動販売機で補充業務を行ったか)を把握・管理することは比較的容易と考えられます。

そして、重要なのが通達の【B】の存在です。

昭和63年に出された通達で、無線やポケットベルによる指示があれば事業場外みなし労働時間制の適用はないことを鑑みれば、携帯電話やスマートフォンなどのモバイル機器がごく当然に利用されている現在においては、事業場外みなし労働時間制が適用される業務がそもそもほとんどないとも考えられます。

実働時間に対してみなし労働時間が短いことが最大の問題点

最も大きな問題点として挙げられるのは、やはり、実働時間に対してみなし労働時間が短いことです。

1日4時間以上の残業代が未払いとなっていた(実働時間とみなし労働時間に乖離があった)ようですので、「業務遂行に通常必要とされる時間」でみなされていたとは言い難いのではないでしょうか。

もし、事業場外みなし労働時間制が適用されること自体が不適切であったとしても、実働時間に見合ったみなし労働時間によって残業代が支払われていれば、今回のような事態にはなっていなかったと考えられます。

「事業場外みなし労働時間制」の労使トラブルは今後も起こり得る

今回のジャパンビバレッジ東京の事案は、多くの企業にとって決して対岸の火事ではありません。

事業場外みなし労働時間制は、全国の企業で営業職の労働者に広く適用されており、固定の営業手当(みなし残業手当)が支払われる代わりに労働時間の長さに応じた残業代が支払われない、一種の固定残業代制度のように運用されています。

その中には、実働時間に比べてみなし労働時間が著しく短く設定されている場合も少なくなく、長時間労働や残業代未払いの温床の一つとして問題となっています。

その背景には、みなし労働時間に明確な基準がなく、違法性を立証することが困難であることが原因としてありました。

ただ、前述のとおり、現在においては事業場外みなし労働時間制が適用される業務がほとんどないと考えられることから、今後は、「みなし労働時間が適切であるか」以前に、「事業場外みなし労働時間制を適用することが適切か」という観点から指導が強化されることが見込まれます

事業場外みなし労働時間制によって、実働時間とみなし労働時間に乖離が生じている企業は、労務管理の方法を一度見直した方がよいでしょう。