2019年の最低賃金見込額を公表!全国平均は初めて900円を突破!東京都と神奈川県は1,000円の大台へ!

2019年7月31日、厚生労働相の諮問機関である中央最低賃金審議会の小委員会が、2019年度の最低賃金(時給)の引き上げ幅の目安を、全国加重平均で3.09%相当(昨年度は3.07%)の27円(昨年度は26円)とするとの答申を取りまとめました。

3%を超える引上げ幅の目安が示されたのは4年連続で、引上げ額は昭和53年度に目安制度が始まって以降の最高額となります。

目安額通りの引き上げが行われた場合には全国平均が初めて900円を超えることとなり、東京都と神奈川県については初めて1,000円の大台を超える見込みとなりました。

実際の引き上げ幅は都道府県ごとに決定される

引き上げ幅の目安は、都道府県をその経済規模などに応じてA~Dランクの4つに分けて、そのランクごとに決定されています。

各ランクの引き上げ幅の目安は次の通りです。なお、かっこ内は2018年の引き上げ幅です。

  • Aランク:28円(27円) 埼玉、千葉、東京、神奈川、愛知、大阪
  • Bランク:27円(26円) 茨城、栃木、富山、山梨、長野、静岡、三重、滋賀、京都、兵庫、広島
  • Cランク:26円(25円) 北海道、宮城、群馬、新潟、石川、福井、岐阜、奈良、和歌山、岡山、山口、徳島、香川、福岡
  • Dランク:26円(23円) 青森、岩手、秋田、山形、福島、鳥取、島根、愛媛、高知、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島、沖縄

今回提示されたのはあくまでも目安額であり、この後、都道府県ごとに設置される地方最低賃金審議会が目安額を参考にその地域の実情を考慮した最低賃金額の審議を行い、都道府県労働局長(または厚生労働大臣)が地方最低賃金審議会の意見に基づいてその都道府県の最低賃金額を決定します。

ただ、中央最低賃金審議会の示す目安額と大きく異なる最低賃金が決定されることはほとんどなく、どの都道府県もランクに応じた目安額程度の最低賃金の引き上げが見込まれます。

東京都と神奈川県は1,000円の大台を突破へ

今回の引き上げで、東京都(1,013円)と神奈川県(1,011円)では最低賃金が1,000円の大台を突破する見込みです。

求人広告を見ていてもパートやアルバイトの賃金がキリの良い「時給1,000円」とされていることは多く、今年は例年に比べて多くの企業が時給額の引上げ等の対応に迫られることになるのではないでしょうか。

なお、安倍政権は、2015年11月24日の経済財政諮問会議で「最低賃金を年3%程度を目途に引き上げて全国加重平均で時給1000円を目指す」と表明しており、実際、2016年以降は毎年3%を超える引上げが実施されてきました。

今後も毎年3%ずつ最低賃金を引き上げていった場合には、4年後の2023年に全国平均の最低賃金が1000円を超える計算です。

しかしながら、2016年から2019年までの4年間における全国平均の引き上げ率はすでに約13%(103円)に達しており、中小企業を中心に経営負担への影響も懸念されます。

政府がこのペースで最低賃金の引き上げを続けていくのか、今後の動向にも注目されます。

地域格差はさらに拡大。急激な引き上げに伴う副作用も

最低賃金の引き上げは経済対策として不可欠なものであり、労働者の生活水準の向上や底上げに資するものです。

しかし、現在最低賃金額で働いている全ての労働者が必ずしも最低賃金引き上げの恩恵にあずかれるとは限りません。最低賃金の引き上げには副作用もあり、やり方やタイミングを誤ると逆に失業者の増加などを招きかねません。

最低賃金の引き上げは、働く機会そのものが失われるリスクをはらんでいます。

例えば、企業は、海外に拠点を移して賃金の安い現地の労働者を使用することや、業務の全自動化やシステム化によって労働者を使用しなくてもよい体制を検討することになるでしょう。

海外への拠点移転やシステム化を行うことが出来ない中小企業は、上がり続ける最低賃金によって採算が取れなくなり、事業を継続することが困難となるおそれがあります。

中小企業の倒産によって大企業への一極集中化が進めば、市場の競争原理が機能しなくなることによって賃金水準の低下を招く可能性もあります。

都市部と地方の最低賃金の格差も問題です。あらゆる面において大都市への一極集中と地方の過疎化が進み、地域格差の是正の必要性が叫ばれていますが、最低賃金はその性質上地域格差の是正とは逆行して都市部と地方の差がだんだん大きくなっています。

都道府県別にみると、2006年の最低賃金は、最も高い東京都(719円)と最も低い沖縄県(610円)の差が109円でしたが、2019年の最低賃金(見込額)は、目安額通りの引き上げが行われた場合には、最も高い東京都(1,013円)と最も安い鹿児島県(784円)の差が229円まで広がります。

なお、784円は、東京都の10年前(2009年)の最低賃金(791円)とほぼ同じ水準です。

最低賃金の地方格差は、都市部への労働力のさらなる集中化を招き、地方はさらに疲弊していくおそれがあります。

政府は難しいかじ取りを迫られていると言えそうです。