倒産に伴って生じた未払賃金の一部を国が立て替えてくれる「未払賃金立替払い制度」の留意点とは?

エステサロン「HSbodydesign(通称:白鳥エステ)」を運営する(株)アキュートリリーが従業員140~150人に対して賃金未払いを生じさせていることが話題となっています。

2019年7月30日には同社の代表取締役が「給与遅配に関するお知らせ」と題した声明を発表しました。

同声明の中では、2019年6月14日に初めて労働基準監督署から是正勧告を受け、2019年いっぱいでの遅配回収を目指すとしています。

ただ、一部店舗の閉鎖や従業員の大量離職が始まっています。エステサロンは一定水準の技術があるエステティシャンを一定数確保する必要がある労働集約型産業であり、賃金遅配が今後の事業経営に与える影響は決して小さくないでしょう。

事業存続については予断を許さない状況と言えます。

倒産に伴う賃金未払いを国が立て替えて支払う「未払賃金立替払い制度」

同社をすでに離職した従業員の中には、賃金未払いが残ったまま退職した人も多いと思われます。

国は、倒産に伴って生じた賃金未払いの一部を会社に代わって立て替えて支払う「未払賃金立替払い制度」を用意しています。

万が一同社が倒産に至った場合には、同社の従業員についても同制度によって賃金未払いの一部(原則8割)が立て替えて支払われる可能性があります。

なお、立替払いされた賃金の請求権は従業員から国に移り、国が会社に対して請求(求償)を行うことになります。

「倒産に伴って生じた賃金未払い」とは

同制度は、「倒産に伴って生じた賃金未払い」でなければ立替払いの対象となりません。

会社の経営状態とは関係のない労使トラブル上の賃金未払いは、同制度から立替払いを受けることができません。

ただ、賃金未払いが倒産に伴うものであるかどうかを事案ごとに個別の事情を考慮して判断することは容易でありません。

そこで同制度では、下記の要件に該当する場合に同制度における立替払いの対象としています。

  1. 従業員が会社が倒産した日の6か月前から2年の間に退職していること
  2. 退職日の6か月前から立替払請求日の前日までに支払期日が到来した賃金又は退職金が未払いであること

会社が倒産した日の6か月前から2年の間に退職した従業員であること

1つ目は退職日に関する要件です。

倒産した日の6か月前の日以降に退職した従業員が、立替払いが受けられる従業員となります。

「会社が倒産した日」は、法律上の倒産の場合は「裁判所への破産手続開始等の申立日」、事実上の倒産の場合は「労働基準監督署に認定申請を行った日」です。

これらの日の6か月よりも前に退職した従業員は、もし賃金未払いがあったとしても倒産に伴って生じたものとはならず、立替払いを受けることができません。

退職日の6か月前から立替払請求日の前日までに支払期日が到来した賃金又は退職金が未払いであること

2つ目は賃金支払い日に関する要件です。

退職日の6か月前の日以降に支払期日が到来した賃金が、立替払いが受けられる賃金となります。

賃金未払いが退職前の7か月以上にわたって生じていた場合には、直近6か月分を除いて立替払いの対象となりません。

退職の時期について難しい判断が迫られることも多い

「倒産に伴って生じた賃金未払い」として立替払いの対象となるためには、退職の時期が非常に重要となります。

賃金未払いが発生した場合には、今後も賃金未払いや遅配が続く不安からすぐに退職を検討する方も多いでしょう。

しかし、その後会社が6か月以上存続すると、倒産に伴う賃金未払いとして立替払いを受けることができなくなります。

一方、賃金未払いや遅配の状態で勤務を継続すれば、通常、日々の生活が立ち行かなくなります。

また、賃金未払いが7か月以上継続してしまうと一部賃金未払いは立替払いの対象から除外されてしまいます。

会社が、賃金未払いを生じさせながらずるずると事業を継続させた場合、従業員は退職の時期について非常に難しい判断を迫られることになると言えるでしょう。