「中退共制度」は、「中小企業退職金共済制度」の略称で、昭和34年に設けられた中小企業のための国の退職金制度であり、独立行政法人勤労者退職金共済機構・中小企業退職金共済事業本部(中退共)によって運営されています。
中退共制度を利用することによって、中小企業であっても、安全、確実、有利に、かつ管理も簡単に退職金制度を導入することが出来ます。
中退共制度に加入した中小企業は、従業員ごとに設定した掛け金を毎月金融機関に納付し、従業員は、退職したときに掛け金に応じた退職金が中退共から直接支払われます。
中小企業が中退共制度に加入するメリットは?
中小企業が中退共制度に加入するメリットには次のようなものがあります。
(1)掛金月額を従業員ごとに任意に設定できる
掛金月額は、5,000円~30,000円の16種類の中から従業員ごとに任意に選択できます。
給与額が高ければ掛金月額も高くしなければならないということはなく、昇給や勤続年数の増加によって必ず増額させなければいけないわけでもありませんから、会社の方針や事情に応じた退職金制度の設計が可能です。
なお、いわゆるパートタイマー(1週間の所定労働時間が正社員より短く、かつ、30時間未満の従業員)であれば、特例としてさらに2,000円~4,000円の3種類からも掛金月額を選択できます。
(2)新規加入したときや掛金を増額したときに国の補助が受けられる
新しく中退共制度に加入した場合、加入4か月目から1年間、掛金月額の2分の1を国が助成してくれます。
ただし、助成金額は従業員ごとに5,000円が上限になりますので、10,000円より多い掛金月額(12,000円~)を選択した場合は、一律5,000円の助成になります。
また、掛金月額がパートタイマーの特例(2,000円~4,000円)の場合は、2分の1よりも少ない助成金額になります。
さらに、掛金月額が18,000円以下の従業員の掛金月額を増額した場合は、増額月から1年間、増額分の3分の1を国が助成してくれます。
(3)納付した掛け金は全額非課税となる
納付した掛け金は、法人企業の場合は損金として、個人企業の場合は必要経費としてそれぞれ取り扱われて全額非課税となります。
そのため、社内の積立てで退職金を準備する場合よりも税制面で有利になります。
人件費の一部を中退共の掛金にして社会保険料と残業代の負担を削減する
中退共制度を活用し、従業員にかかっている人件費の一部を中退共制度の掛金とすることで、会社の社会保険料や残業代の負担を削減することが出来ます。
例えば、新たに雇い入れる従業員に支払える賃金が月給24万円だとします。
このときに「月給24万円」ではなく「月給22万円と中退共の掛金月額2万円の合計24万円」の条件で雇い入れるとどうなるでしょうか。 中退共の掛金は賃金ではありません。
そのため、会社は、賃金額で決まる社会保険料の負担額を、中退共の掛金月額分だけ少なくすることができます。
賃金が月額2万円下がれば、会社の社会保険料負担額は、1か月当たり約3,000円、年間で約36,000円削減することができます。
また、中退共の掛金は賃金ではないため残業代を計算する際の基礎にも含まれません。
そのため、1時間当たりの残業代単価を小さくすることになり、残業代も削減できることになります。
会社だけでなく従業員本人にとってもメリットあり
賃金の一部を中退共制度の掛金賃金として支払うことは、従業員本人にも次のようなメリットがあります。
(1)従業員本人も社会保険料負担が少なくなる
従業員本人が負担する社会保険料も会社と同じ金額だけ少なくなりますから、給与の手取り額の増加につながります。
(2)退職時には掛金総額を上回る退職金が支払われる
従業員が退職するときに支払われる退職金は、掛金総額を一定の利回りで運用した金額で支払わます。
これを「基本退職金」といいますが、現在の運用利回りは1.0%となっており、一般的な銀行預金の利率よりも有利な利回りで運用された額が支払われます。
また、中退共の運用収入の状況によっては、基本退職金に上積みされて「付加退職金」が支払われることがあります。
人件費の一部が中退共の掛金にあてられることで毎月の賃金額は少なくなりますが、その差額は自動的に積み立てられているだけで、退職時にはそれ以上の退職金が支払われるため、従業員に損はありません。
ただし、掛金の納付月数が11ヶ月以下の場合は退職金が支払われません。
また、納付月数が24ヶ月以下の場合は支給される退職金は掛金総額よりも少なくなりますので、最初から2年以下の勤続年数しか見込まれない場合などは注意が必要です。
(3)退職金は「退職所得」として課税され、実質非課税となることが多い
従業員が退職するときに中退共から支払われる退職金は、所得税法上、「退職所得」として取り扱われます。
この退職所得ですが、勤続20年目までは「40万円×勤続年数」、21年目以降は「800万円+70万円×勤続年数」までが非課税となり、所得税が課せられません。
中退共制度による退職金がこの非課税限度額を超えることはほとんどありませんから、実質非課税になることがほとんどです。
つまり、従業員は、中退共から支払われる退職金をそのまま全額受け取ることが出来ます。
賃金として毎月2万円が支払われている場合は、その2万円にも給与所得として所得税が課せられています。
そのため、賃金として毎月2万円が支払われる場合よりも、退職金として支払われて実質非課税となる中退共制度のほうが所得税の分だけ有利になります。
中退共制度のデメリットも理解しておこう
一方、中退共制度のデメリットについても理解しておきましょう。
まず、会社は、掛金の増額は自由にできますが、掛金の減額は、原則として本人の同意がなければできません。
また、従業員に懲戒解雇がやむをえないような非違行為があるとき、退職金の全部または一部を不支給とする規定を設けている会社が多いですが、中退共制度では、懲戒処分を理由に退職金の不支給や減額をすることが困難です。
退職金減額の申請手続きが一応用意されてはいますが、ちょっとやそっとの理由では認められておりません。
ただ、人件費の一部を、賃金ではなく中退共制度の掛金として支払っていると考えれば、退職金は、毎月の賃金の一部が後払いで支払われているだけといえます。
そう考えれば、もし従業員に懲戒事由があったとしても、退職金の不支給や減額にこだわる必要はないと言えるでしょう。
まとめ
中退共制度を上手く活用すれば、掛け金の経費計上による税金負担の削減、社会保険料の負担削減、残業代の単価削減などによって会社の経費を削減させることが出来ます。
中退共制度は、従業員にとってもメリットが多い制度です。
現在退職金制度がない、または自社積立てで退職金を支払っているという中小企業であれば、中退共制度の利用を一度検討してみてはいかがでしょうか。