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労働時間制度の要件と効果を比較!高度プロフェッショナル制度の特長は?

平成30年5月31日に、働き方改革法案が衆院本会議で賛成多数で可決され、衆院を通過しました。

「定額働かせ放題」と揶揄されている「高度プロフェッショナル制度」(高プロ制度)も成立がほぼ確実な状況ですが、高プロ制度は、従来の労働時間制度と比較してどのような点に特徴があるのでしょうか。

今回は、次の労働時間制度の導入要件と導入効果について整理してみたいと思います。

  1. 1か月単位の変形労働時間制(第32条の2)
  2. フレックスタイム制(第32条の3)
  3. 1年単位の変形労働時間制(第32条の4)
  4. 事業場外のみなし労働時間制(第38条の2)
  5. 専門業務型裁量労働制(第38条の3)
  6. 企画業務型裁量労働制(第38条の4)
  7. 管理監督者(第41条)
  8. 高度プロフェッショナル制度(第41条の2)

導入要件の比較

(1)導入の手続き

「1か月単位変形」「フレックスタイム」「1年単位変形」「専門型裁量労働制」は、労働者の過半数で組織する労働組合または労働者の過半数を代表する者との間で労使協定を締結する必要があります。

ただし、1か月単位変形は、就業規則に規定するだけでも導入が可能です。

「企画型裁量労働制」「高プロ制度」は、使用者と労働者で構成する労使委員会を設置し、委員の5分の4以上の多数による決議が必要であり、労使協定よりも厳しい要件が課せられています。 「事業場外みなし」と「管理監督者」は、「法律上このように取り扱う」という規定であるため、導入手に必要な手続はなく、一定要件を満たす場合に法律上当然に適用されます。

(2)本人の同意

「高プロ制度」「企画型裁量労働制」は、制度導入に本人の同意が必要です。

他の制度は、制度導入の際に労働者個別の同意を得る必要はありません。

ただ、制度導入の手続きとして労働者本人の同意が不要というだけで、労働者本人の同意なく使用者が一方的に労働条件を変更できるという意味ではありません。

使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできません(労働契約法第9条、10条)。

そのため、労働時間制度の適用や変更(労働条件の変更)に合理的な理由がない場合には、無効とされる場合があります。

(3)裁量権の付与

「専門型裁量労働制」「企画型裁量労働制」は、業務遂行の手段や時間配分の決定など、労働者に大幅に裁量権を付与することが必要です。

「高プロ制度」は、「成果を評価する制度」と謳われており、労働者に裁量権が与えられるようなイメージがありますが、労働者に裁量権を与えることは義務付けられていません。

「フレックスタイム」は、始業時刻と終業時刻を労働者の決定に委ねる必要があります。

「管理監督者」は、裁量権の付与が法律に明記されているわけではありませんが、「部長、工場長等労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者」「労働時間等に関する規定の規制を超えて活動しなければならない企業経営上の必要性」が求められます。

そのため、実質的には相応の裁量権が与えられている必要があり、裁量権がない場合には、管理監督者性を否定される要因となります。

(4)収入要件

「高プロ制度」は、1年間の収入見込み額が1075万円以上である労働者が対象となります。

同金額は、「平均給与額の平均額の3倍の額を相当程度上回る水準として厚生労働省令で定める額以上」として定められています。

その他の労働時間制度で収入要件が定められているものはありません。

ただし、「管理監督者」は、その地位にふさわしい待遇がされているかどうかが管理監督者性を判断するための重要な要素となっているため、実質的な収入要件があると言えます。

しかし、明確な基準がないため、待遇面の実態が伴っていない「名ばかり管理職」の問題が各地で取りざたされています。

高プロ制度の収入要件については、将来的に引き下げられることが懸念されていますが、あいまいな適用を防止する観点からは、明確な収入水準が設けられたこと自体は重要と言えるでしょう。

(5)業務・職種の制限

「専門型裁量労働制」「企画型裁量労働制」は、一定の専門業務(19業務)や企画業務(企業の本社などにおける企画、立案、調査及び分析の業務)に従事している者が対象となります。

「高プロ制度」は、「高度の専門的知識等を必要とし、労働時間と成果との関連性が低いと認められる業務」として厚生労働省令で定める業務に従事する労働者が対象です。

高プロ制度の対象として想定されている業務には、

  • 金融商品の開発業務
  • 金融商品のディーリング業務
  • 企業・市場等の高度な分析にあたる、アナリスト業務
  • 事業や業務の企画運営にあたる、コンサルタント業務
  • 研究開発業務

などがあります。 その他の労働時間制度は、業務・職種による制限はありません。

導入効果の比較

(1)時間外労働に関する規定

「管理監督者」「高プロ制度」は、労働時間に関する規定が適用されないため、法定労働時間(第32条)、時間外労働の上限(第36条)、時間外手当の支払い(第37条)などの規定が適用されません。

他の労働時間制度は、時間外労働の限度時間の定めや時間外手当の支払い義務などがあります。

ただし、「1か月単位変形」「フレックスタイム」「1年単位変形」は、通常、法定労働時間(1日8時間又は週40時間)を超える時間に対して支払う必要がある時間外手当を、それぞれの制度に基づいて時間外労働となる時間に対して支払うことができるようになるため、うまく活用することで、時間外手当の支払い負担を小さくすることが可能です。

(2)休日に関する規定

「管理監督者」「高プロ制度」は、休日に関する規定が適用されないため、休日の付与(第35条)や休日手当の支払い(第37条)の規定が適用されません。

ただし、高プロ制度は、導入要件として「年104日以上かつ4週4日以上」の休日を与えることが定められているため、休日(第35条)の規定とは別に休日を与えることが義務付けられています。

その他の労働時間制度は、週1日以上(または4週4日以上)の休日の付与と、休日出勤の際の休日手当の支払いが必要です。

(3)休憩に関する規定

「管理監督者」「高プロ制度」は、休日に関する規定(第34条)が適用されません。

他の労働時間制度は、労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は60分以上の休憩を労働時間の途中に与えなければなりません。

(4)深夜労働に関する規定

「高プロ制度」は、深夜労働に関する規定が適用されないため、深夜手当の支払い(第37条)が必要ありません。

深夜労働の規定は、高プロ制度で初めて適用除外とされることとなりました。

従来の労働時間制度において深夜労働の規定が適用除外とされたことはありません。

特に、「フレックスタイム」「事業場外みなし」「専門型裁量労働制」「企画型裁量労働制」「管理監督者」は、これらの制度を適用されている者であっても、深夜(22時~翌5時)に勤務した時間については深夜手当の支払いが必要となることに留意してください。

(5)みなし労働時間の適用

「高プロ制度」は、労働時間をみなす制度ではないため、みなし労働時間の適用はありません。

「事業場外みなし」「専門型裁量労働制」「企画型裁量労働制」は、実労働時間にかかわらず一定の時間勤務したものとみなされます。

労働時間制度の比較一覧

各労働時間制度の導入要件と導入効果を整理すると、次の表のようになります。

高プロ制度の導入要件は、対象業務についてあいまいに解釈されて適用される可能性がありますが、比較的明確と言えます。

裁量権の付与が義務付けられていないため、長時間残業や連日の徹夜残業などを命じることが法律上は可能となりますが、高プロ制度の対象者であっても、過労死等が発生した場合には、会社は民事上の損害賠償責任を問われ、「ブラック企業」として信用失墜は免れません。

企業の労務管理能力や倫理観が問われる制度とも言え、高プロ制度の導入・運用には慎重な対応が求められます。

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