配偶者控除が受けられる範囲でパート勤務をしている方の中には、1年間の給与収入の合計が103万円以下(2016年現在)に収まるように、年末に勤務時間数の調整を行っている方も多いのではないでしょうか。
中には、「103万円の壁」ではなく、自ら社会保険に加入しなければならない「106万円の壁」や「130万円の壁」を超えないように、年末に勤務調整を行っている方もいらっしゃいます。
「106万円の壁」や「130万円の壁」は収入見込額で判断される
しかし、「103万円の壁」を超えないように勤務調整を行うことには一定の意味があるのに対し、「106万円の壁」や「130万円の壁」を超えないように年末に勤務調整を行うことはあまり意味がありません。
なぜなら、配偶者控除の適用が、「1年間(1月~12月)に実際に支払われた給与が103万円を超えているかどうか」で判断されるのに対し、社会保険の加入は、「収入見込額が106万円や130万円を超えているかどうか」で判断されるからです。
1年間の給与支給総額が106万円や130万円を超えていても、それが一時的な増加によるものと認められ、今後106万円や130万円を超える収入が見込まれない場合には、社会保険に加入する必要はありません。
逆に、今年1年間の給与支給総額が106万円や130万円を超えていなくても、賃金条件の変更等によって、以後1年間の収入が106万円や130万円を超えることが見込まれるのであれば、その時点で社会保険に加入しなければなりません。
つまり、その年に実際に支払われた給与が106万円や130万円を超えているかどうかは、関係がないのです。
「106万円の壁」は実は「月収8万8000円の壁」
では、収入見込額が社会保険に加入しなければならない基準額を超えているかどうかは、どのように判断されるのでしょうか。
「106万円の壁」は、今年10月のパート労働者への社会保険適用拡大によって新たに発生した壁として話題になり、このブログでも何度か取り上げています。
しかし、実は、年収を基準とした「106万円の壁」というものは存在せず、実際は、「月収8万8000円の壁」になります。
つまり、パートが社会保険に加入しなければならないかどうかは、年単位で収入見込額を見るのではなく、原則として、雇用契約に基づく月収見込額が8万8000円を超えるかどうかが基準となります。
例えば、時給1,000円、1日の所定労働時間が6時間、月の所定労働日数が20日の条件で採用されたパートであれば、月収見込額は12万円(=1000円×6時間×20日)になるため、社会保険への加入が必要になります。
一方、時給1,000円、1日の所定労働時間が8時間、月の所定労働日数が10日の条件で採用されたパートであれば、月収見込額は8万円(=1000円×8時間×10日)になるため、社会保険への加入は必要ありません。
「130万円の壁」の場合も同様に、月収見込額に換算して社会保険への加入の要否を判断します。 ただし、「106万円の壁」と「130万円の壁」では、計算に含めるべき手当の範囲などが異なる点に注意してください。
(関連記事:実は全く別物!「103万円の壁」「106万円の壁」「130万円の壁」の違いとは?)
賃金条件が基準以下でも勤務実態によっては社会保険に加入しなければならない場合も
採用時の賃金条件では月収8万8000円を下回っていても、実際の勤務では常態的に残業(法定内残業)を行っていて、毎月のように8万8000円を超える賃金が支払われていると認められる場合には、収入見込額が8万8000円を超えているものと判断されて、社会保険への加入が必要になります。
その点においては、社会保険に加入しなくてよい範囲に収入が収まるように勤務調整を行うことにも全く意味がないとは言えません。
しかし、この判断は、年末に限って行われるわけではありませんから、年末に勤務調整を行うことにはやはり意味はありません。
年の途中であっても、実際の月収が8万8000円以上であると認められれば、これが一時的なものであると認められない限り、その時点で社会保険に加入しなければなりません。
つまり、社会保険に加入しない範囲で働きたいのであれば、1年間の収入総額が106万円や130万円を超えないように年末に勤務調整を行うのではなく、月ごとの平均月収額を意識した働き方にする必要があると言えます。
年末に勤務調整すればよいと考えていると、思わぬところで社会保険の加入要件に該当してしまうことにもなりかねませんので、ご注意ください。
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