サイトアイコン 社会保険労務士事務所しのはら労働コンサルタントBlog

36協定があっても過労死ラインを超える長時間労働を行わせることが出来てしまう理由

厚生労働省は、労働者が発症した脳血管疾患(くも膜下出血や脳梗塞)や心臓疾患(心筋梗塞や狭心症)を労災として認定する際の基準として、「脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準」(脳・心臓疾患の認定基準)を定めています。

同基準では、脳・心臓疾患を発症した労働者が、直前1ヶ月間に100時間を超える時間外労働が認められる場合、または、直前の2~6ヶ月間のいずれかで平均80時間を超える時間外労働が認められる場合には、業務と発症との関連性が強いと評価できるとしています。

この時間が、いわゆる「過労死ライン」であり、脳・心臓疾患を発症した労働者に、過労死ラインを超える時間外労働を行っていた場合には、過労死として労災認定される可能性が非常に高くなります。

限度時間をさらに超えて時間外労働を行わせることが出来る「特別条項」

会社は、労働基準法第36条に基づく「時間外労働・休日労働に関する労使協定」(36協定)を労働者代表と締結することで、その範囲において、労働者に、時間外労働や休日労働を行わせることが出来ます。

36協定で定めることが出来る時間外労働の時間数には、限度時間が設けられています。

しかし、「特別条項」の付いた36協定を締結した場合は、その限度時間を超えてさらに時間外労働を行わせることが出来るようになり、過労死ラインを超える時間外労働を行わせることも可能となります。

特別条項は、昨今の長時間労働に関するニュースの中でも取り上げられ、36協定があっても長時間の時間外労働を行わせることが出来てしまう原因としてよく知られるようになりました。

しかし、36協定を適法に締結していても過労死ラインを超える時間外労働を行わせることが出来てしまう原因は、特別条項以外にもいくつも存在します。

[adsense0]

「3ヶ月120時間」で協定すれば特定月にまとめて残業をさせることが可能

36協定では、「1日」「1日を超え3ヶ月以内の期間」「1年」の3つの期間のそれぞれについて、延長することが出来る時間を労使間で協定します。

このうち、1日と1年は、必ず延長時間を定めなければなりませんが、「1日を超え3ヶ月以内の期間」は、労使間で任意の期間を選択して延長時間を定めることができます。

時間外労働の限度時間は選択した期間ごとに定められており、最も一般的に選択されている1ヶ月を選択した場合の限度時間は45時間になりますが、3ヶ月を選択した場合の限度時間は120時間になります。

「3ヶ月120時間」を選択した場合、月当たりに行わせることが出来る時間外労働は、「1ヶ月45時間」を選択したときよりも少なくなります。

しかし、繁忙月などの特定の月にまとめて時間外労働を行わせることが可能となり、1ヶ月100時間を超える時間外労働を行わせることが出来るようになります。

時間外労働の限度時間には含まれない休日労働時間

法定休日に行った労働時間は、時間外労働の「1ヶ月45時間」等の限度時間の中には含まれず、休日労働時間として別に集計されます。

会社が労働者に行わせることが出来る休日労働は、36協定で時間外労働とは別に定められますが、休日労働を行わせることが出来る回数や休日労働の時間数は、時間外労働の限度時間のような限度が設けられていません。

そのため、すべての休日に出勤を命じ得るような36協定を締結することも可能であり、特別条項を締結していなくても、残業と休日労働を合わせれば、1ヶ月100時間や80時間を超える時間外労働を行わせることが出来るようになります。

一部の事業や業務では限度時間の適用が除外される

36協定によって行わせることが出来る時間外労働は「1ヶ月45時間」等の限度時間が設けられていますが、

  1. 工作物の建設等の事業
  2. 自動車の運転の業務
  3. 新技術、新商品等の研究開発の業務
  4. 厚生労働省労働基準局長が指定するもの(郵政事業の年末・年始における業務等)

は、この限度時間の適用が除外されています。

そのため、これらの事業や業務では、特別条項を定めていなくても、1ヶ月100時間を超える時間外労働を行わせることが出来る36協定を締結することも可能です。

36協定の範囲であっても過労死に対する会社の損害賠償責任は免れない

以上のように、36協定には、適法に締結していても、過労死ラインを超える時間外労働を行わせることが出来てしまうケースがいくつもあります。

しかし、36協定の範囲で行わせた時間外労働であっても、労働者が過労死した場合には、会社は、損害賠償責任を免れられません。

(関連記事:36協定を締結していれば会社は過労死の責任を免れられる?

労働者の健康管理は、36協定とは別問題としてしっかりと対策を講じましょう。

モバイルバージョンを終了