秋田労働局が破産した百貨店を解雇予告手当不払いで書類送検した理由は?

秋田労働局は2021年2月18日、2020年1月に破産した百貨店「大沼」を、解雇した従業員らに解雇予告手当を支払わなかったとして労働基準法第20条違反で山形地検に書類送検しました。

「破産の百貨店社長を書類送検 解雇予告手当不払いの疑い」(朝日新聞デジタル)

会社が破産した場合、その多くでは賃金の未払いが生じているため、賃金不払い(労働基準法第20条違反や最低賃金法第4条違反)で送検することは少なくありませんが、解雇予告手当の不払いで書類送検することは異例とも言えます。

解雇予告通知を行う期間はあったはずなのになぜ行わなかったのか

労働基準法第20条は、解雇の際には30日以上前の予告か、30日分以上の解雇予告手当の支払いをすることを義務付けています。

解雇予告通知を行っていれば、解雇予告手当の支払いは必要ありません。

30日以上前の解雇予告通知を行う期間は十分にあったはずですが、同社の破産に関する関連ニュースを見ると、1月26日に営業を停止して同日付で従業員191人を解雇し、27日に山形地裁に自己破産を申請しています。

「自己破産申請の百貨店、大沼 「支払い延期不可能」」(日本経済新聞)

取引先などの関係者も破産申請をするまで知らされていなかったようであり、解雇予告通知をしなかったのは、営業停止ぎりぎりまで破産の事実を隠しておきたかったという身勝手な思惑があったためと推測されます。

今回の事案が悪質性が高いと考えられる3つの理由

解雇予告通知も解雇予告手当の支払いも行われなかったことで、従業員は、次の就職先を探すための十分な期間や余裕がなくなり、従業員や家族を長期の生活不安に陥れるおそれがあります。

また、解雇予告通知が行われていれば、従業員は、営業停止日より前に退職して求職活動を行うことも可能です。

早期に退職すればその分未払い賃金の増加を抑えることができ、会社は、いたずらに未払い賃金額を増加させたと言えます。

会社の倒産に伴う未払い賃金は、退職した労働者とその家族の生活の安定を図るセーフティーネットとして設けられている「未払賃金立替払制度」によって、一部が国から立て替えて支払われます。

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しかし、解雇予告手当は賃金ではないため、未払賃金立替払制度による立替払いは受けられません。

会社に残っている債権の中から支払いを受けるしかありませんが、事実上、解雇予告手当の支払いを受けることはもはや不可能といえるでしょう。

これらのことから、解雇予告を行う期間は十分あったはずであるにもかかわらず解雇予告をしなかったことは、事案としてかなり悪質といえます。

秋田労働局が解雇予告手当不払いで書類送検に踏み切ったのは、悪質性の高さに加えて、山形県内唯一の老舗の百貨店の破産としてニュースで大きく取り上げられるなど知名度の高さもあり、見せしめ的な意味合いもあるかもしれません。