会社都合の休業日に行った副業の収入は賃金請求権や休業手当から控除される?

民法第536条第2項は、反対給付を受ける権利について規定しています。

§民法

(債務者の危険負担等)
第536条第2項 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。この場合において、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。

本条前段により、会社都合で休業した労働者(=働く義務があった債務者)は、会社(=働かせる権利があった債権者)の責に帰すべき事由で就業できなかった(=債務を履行することができなくなった)ため、賃金を受ける権利(=反対給付を受ける権利)を失わず、その日の賃金全額を会社に請求することができます。

一方、本条後段により、会社都合で休業した日に副業を行って収入を得た(=自己の債務を免れたことによって利益を得た)場合、会社に対する賃金請求権と相殺(=債権者に償還)されるのでしょうか。

判例は「副業程度のものは自己の債務を免れたことによって利益を得たとは言えない」

この点につき、米極東空軍山田部隊事件 (S37.7.20 最高裁第二小法廷判決)では、

  • 不就業期間中他で働いて収入を得た場合には、それが副業的なものでない限り、民法第536条第2項但し書きに基づき使用者に償還すべきである
  • 自己及び家族の生活維持のため、副業の程度においてなした労働による収入は、自己の債務を免れたことにより得た利益とはいわれない

とし、副業程度のものについては会社に対する賃金請求権と相殺されるものではないと判断しています。

したがって、いわゆる副業程度のものであれば、会社都合で休業した日の賃金請求権と相殺されることはありません。

ただ、現在は、「兼業」「複業」「パラレルワーカー」などの働き方の多様化が進んでいて、本業と副業の区分が明確でない場合も多く存在します。 個々の事案においては、「副業程度のものと言えるのか」が争点になることも考えられます。

相殺できる場合も限度額は平均賃金の4割まで。会社は休業手当を支払う義務を免れない。

上記判例では、「他での勤務における地位及び金額から見て、単に副業的なものとは考えられない」と判断されて、本業における賃金額から、他の勤務で得た収入を控除すべきとされています。

ただし、「労働基準法第26条が、休業の場合につき、平均賃金の少くとも6割に相当する手当の支払を命じ、違反行為に対する罰則規定をもって、これを強制している趣旨に徴すれば、右別途収入による控除額は、労務者の平均賃金の4割を超えることを許さないものと解するを相当とする。」としています。

つまり、他で多額の収入を得ていてそれを賃金から控除すべき場合であっても、賃金から控除できるのは平均賃金の4割までに限定され、会社は、強行法規である休業手当(平均賃金の6割)の支払いを免れません。