NHKは10月4日、同局の記者だった女性(30代)が2013年7月に心不全で死亡し、その原因が過重労働によるものであったとして2014年に渋谷労働基準監督署によって労災認定されていたことを発表しました。

時間外労働の時間は、亡くなる直前の2013年年6月下旬から7月下旬までの1ヶ月間では159時間37分に達しており、5月下旬からの1ヶ月間でも146時間57分にのぼっています。

渋谷労働基準監督署は、女性記者が都議選と参院選の取材で深夜に及ぶ業務や十分な休日の確保もできない状況にあったとして、脳・心臓疾患の認定基準に基づいて労災認定を行いました。

女性記者が亡くなって4年も経過してからの発表ということもあり、NHKは世間から批判を受けています。

あらかじめ定めたみなし労働時間だけ働いたとみなされる「専門業務型裁量労働制」

NHKの女性記者には適用されていなかったようですが、記事の取材や編集の業務は、労働基準法第38条の3に規定されている「専門業務型裁量労働制」の対象業務となっています。

専門業務型裁量労働制は、業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があると厚生労働省令と厚生労働大臣告示が定められている下記の業務に労働者を従事させた場合に、労使であらかじめ定めた時間だけ働いたものとみなす制度です。

  1. 新商品若しくは新技術の研究開発又は人文科学若しくは自然科学に関する研究の業務
  2. 情報処理システム(電子計算機を使用して行う情報処理を目的として複数の要素が組み合わされた体系であつてプログラムの設計の基本となるものをいう。7において同じ。)の分析又は設計の業務
  3. 新聞若しくは出版の事業における記事の取材若しくは編集の業務又は放送法(昭和25年法律第132号)第2条第4号に規定する放送番組若しくは有線ラジオ放送業務の運用の規正に関する法律(昭和26年法律第135号)第2条に規定する有線ラジオ放送若しくは有線テレビジョン放送法(昭和47年法律第114号)第2条第1項に規定する有線テレビジョン放送の放送番組(以下「放送番組」と総称する。)の制作のための取材若しくは編集の業務
  4. 衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務
  5. 放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサー又はディレクターの業務
  6. 広告、宣伝等における商品等の内容、特長等に係る文章の案の考案の業務(いわゆるコピーライターの業務)
  7. 事業運営において情報処理システムを活用するための問題点の把握又はそれを活用するための方法に関する考案若しくは助言の業務(いわゆるシステムコンサルタントの業務)
  8. 建築物内における照明器具、家具等の配置に関する考案、表現又は助言の業務(いわゆるインテリアコーディネーターの業務)
  9. ゲーム用ソフトウェアの創作の業務
  10. 有価証券市場における相場等の動向又は有価証券の価値等の分析、評価又はこれに基づく投資に関する助言の業務(いわゆる証券アナリストの業務)
  11. 金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務
  12. 学校教育法(昭和22年法律第26号)に規定する大学における教授研究の業務(主として研究に従事するものに限る。)
  13. 公認会計士の業務
  14. 弁護士の業務
  15. 建築士(一級建築士、二級建築士及び木造建築士)の業務
  16. 不動産鑑定士の業務
  17. 弁理士の業務
  18. 税理士の業務
  19. 中小企業診断士の業務

上記の業務に従事している労働者について、使用者と労働者代表者が働いたとみなす時間その他の必要事項について労使協定を締結した場合には、労働日ごとの労働時間数は、実際に勤務した時間数にかかわらず、あらかじめ定めているみなし労働時間だけ働いたものとみなされます。

専門業務型裁量労働制で問題となる4つの具体的事例

専門業務型裁量労働制は、長時間労働や未払い残業代を引き起こす要因となることも多い労働時間制度の一つです。

今年の9月には、ゲーム開発会社の株式会社サイバードが、宣伝やイベント企画を担当していた女性に対して専門業務型裁量労働制を適用していることが無効だとして、渋谷労働基準監督署から残業代を支払うように是正勧告を受けたことがニュースで報じられています。

専門業務型裁量労働制の運用が不適切と認められるケースには、次のようなものがあります。

(1)本来適用できない業務に従事している労働者に専門業務型裁量労働制を適用している

サイバードのケースがこれに当たります。

「4.衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務」や「9.ゲーム用ソフトウェアの創作の業務」など、専門業務型裁量労働制を採用できる業務の中には具体的な業務内容が必ずしも明確ではないものもあるため、その範囲を広く解釈して適用されていることが少なくありません。

しかし、専門業務型裁量労働制が認められる業務は、あくまでも「時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務」であり、その実質で判断されます。

全体としてはゲーム用ソフトウェアの創作の業務に携わっているとしても、指示に従ってプログラミングを行うだけの労働者などには専門業務型裁量労働制を適用することはできません。

(2)資格が必要な業務に従事している無資格の労働者に専門業務型裁量労働制を適用している

13~19の業務は、士業資格を有する労働者がその資格に基づいて行う業務となります。

ただ、実務上は、無資格の労働者が、資格を有する(登録している)労働者の補助業務としてそれに準ずる業務を行っていることが一般的であり、無資格の労働者であっても、実務経験が長い場合には有資格者よりも業務に詳しい場合も少なくありません。

無資格の労働者への専門業務型裁量労働制の適用の是非については、税理士登録をしていない労働者に専門業務型裁量労働制を適用することが出来るかどうかについて争われた「レガシィ事件」(平成26年2月27日東京高裁)という裁判例があります。

同判決では、「税理士の業務」とは、税理士登録をしている労働者が行う業務であり、税理士資格を有していない(登録していない)労働者に専門業務型裁量労働制を適用することはできないという判決が下されました。

その他の士業資格に基づいて行われる業務についても同じ考え方になります。

なお、税理士資格を有していたとしても、税理士としての業務を行っていない場合には、やはり専門業務型裁量労働制を適用することはできませんので注意してください。

(3)労使協定で定めるみなし労働時間が実労働時間に比べて短い

専門業務型裁量労働制を採用した場合には、各労働日の労働時間については、その日の実労働時間数に関わらず、あらかじめ使用者と労働者の過半数代表者が労使協定で定めたみなし労働時間だけ働いたものとみなされることになります。

みなし労働時間は、通常必要とされる労働時間数(平均的に必要とされる労働時間数)を基準に定めるべきですが、実際に必要とされる労働時間よりも大幅に少ないみなし労働時間が設定されている場合も少なくありません。

労働者が不満を持ちやすく、残業代の未払いとして労使トラブルに発展することも多いので、みなし労働時間をどの程度で設定するかについては十分に検討を行っておく必要があります。

(4)実労働時間の把握・管理を行っていない

専門業務型裁量労働制は、時間配分などの裁量を労働者にゆだねることになることから、会社が労働時間管理を行っていない場合も少なくありません。

しかし、専門業務型裁量労働制を採用している場合であっても、会社には、労働者の実労働時間を適切に把握・管理し、長時間労働による健康障害を防止するために必要な措置を講じなければならない「安全配慮義務」があり、長時間労働による健康障害が生じた場合には会社はその責任を負うことになります。

労働時間管理を行ったら労働者に裁量をゆだねたことにならないと考えている方がいらっしゃいますが、裁量権の話と労働時間の把握・管理の話は別の話です。

これは専門業務型裁量労働制に限ったことではありません。

どのような労働時間制度を採用したとしても、長時間労働による健康障害が生じた場合には、会社はその責任を免れることはできないことに留意してください。