持ち帰り残業は労働時間に含まれる?

女性新入社員の過労自殺が労災認定されたことに端を発し、従業員に日常的に長時間労働を行わせていた実態が浮き彫りとなった電通が、労務管理の改善策の一環として、午後10時からの全館一斉消灯を開始しました。

しかし、全館一斉消灯の実施に伴って従業員の業務量がいきなり減るわけではないでしょう。

そのため、「会社で出来なくなった仕事を持ち帰り残業として行うことになっただけではないか」という懸念も生じています。

持ち帰り残業は、残業代不払いや長時間労働などの労働基準法違反の温床の一つとして従来から問題視されていましたが、ここにきて改めて注目されている形となっています。

持ち帰り残業に関するトラブルで問題となる点は?

持ち帰り残業に関する労使トラブルは数多くありますが、ニュースで大きく報じられた持ち帰り残業に関するトラブルの一つに、平成23年に、金沢労働基準監督署が、大手英会話学校の女性講師の自殺を、長時間の持ち帰り残業が原因であったとして労災認定したケースがあります。

この女性講師は、持ち帰り残業に関する具体的な指示はされていませんでしたが、上司から「仕事の段取りが悪すぎる」等と叱責され、自宅での作業を余儀なくされていました。

原則として、会社が指示または承認をしていない(=会社の指揮命令下にない)持ち帰り残業は、労働時間に含まれません。

しかし、会社が、所定の労働時間では処理できない業務量を指示している場合や、従業員が持ち帰り残業を行っていることを知りながらそれを放置している場合は、会社が「黙示的な指示または承認」をしているものとして労働時間に含まれます。

そのため、実務上生じている持ち帰り残業のほとんどは、労働時間として認められ得るものであると考えた方がいいでしょう。

また、持ち帰り残業に関するトラブルは、会社で行った残業と比べて労働時間を示す客観的資料が乏しいため、業務を行った時間数の特定に争いが生じ、解決が長引いたり困難となったりする場合も多いのも特徴です。

ただ、この事例において、金沢労働基準監督署は、女性講師が自宅で行っていたレッスン用の教材カード約2400枚の作成に要した時間を、実際にカードを作成してみるなどによって試算し、その作業時間が月82時間だったと推定して労災認定を決定しました。

作業時間を示す証拠資料ではなく、作業に要する時間の試算から労働時間を推定して労災認定にまで至ったこの事例は、持ち帰り残業による労使トラブルの防止や解決を考える際にも参考とするべきでしょう。

トラブル防止には持ち帰り残業禁止の規定化と適正な業務配分を

会社として、従業員が持ち帰り残業を行うことを望まないのであれば、持ち帰り残業の禁止を就業規則等に明確に規定しておきましょう。

これは、顧客情報などの個人情報や機密情報の保護の観点からも重要です。

ただし、就業規則で禁止していたとしても、従業員が多くの持ち帰り残業を抱えていることを認識しているにもかかわらず、「注意をしても聞かないから」といって放置していると、「黙示的な承認」となり、労使トラブルの防止にはつながりません。

トップが、例外は認めないという強い意志を示し、それでもなお従業員が持ち帰り残業を行う場合には、業務命令違反として懲戒処分を科すことも辞さないという厳格な姿勢で臨むことが重要です。

しかし、それは、会社が、従業員の能力に見合った適切な業務配分を行っていることが大前提です。

これはルールを決めて持ち帰り残業を認めている場合であっても同様です。

結局のところ、上司が普段から部下の業務の進捗状況や遂行状況を把握し、その能力に見合った適切な業務配分を行うことが、持ち帰り残業によるトラブル防止の最善策と言えるでしょう。