36協定を締結していれば会社は過労死の責任を免れられる?

36協定を締結していれば会社は過労死の責任を免れられる?

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時間外労働に対する世間の注目度が高まっていることもあり、長時間労働によって生じた死亡事故や健康被害に対する損害賠償を求めて、本人や遺族が会社に対して訴訟を起こすケースが増加しています。

では、労働基準法第36条に定められている「時間外労働及び休日労働に関する協定届」(いわゆる「36協定」)に基づいて時間外労働を行わせている場合であれば、会社は過労死の責任を問われることはないのでしょうか。

過労死で器具レンタル会社に約4800万円の損害賠償命令

11月25日、商品陳列用の器具レンタル会社「山元」(本社・東京都)が、アルバイト従業員の男性(当時38歳)が致死性不整脈で急死したのは過労が原因であったとして、大阪地裁から、男性の妻らに対して約4800万円の損害賠償を支払うよう命じられました。

男性は百貨店などで商品陳列器具の搬入や設置などの作業を担当していましたが、判決では、死亡前の1ヶ月間の時間外労働は約84時間で、深夜までの作業もたびたび行っていて長時間かつ極めて不規則な労働が続いており、過労によって死亡に至ったものと認定されました。

今回のケースのように、長時間労働によって脳血管疾患(くも膜下出血や脳梗塞など)や心臓疾患(心筋梗塞や狭心症)を発症して死亡し、または自殺したと認定されるケースでは、損害賠償の額が数千万円から1億円以上になることが少なくありません。

月100時間を超える残業を行わせることもできる36協定

労働基準法第32条では、使用者は、労働者に、1日8時間または週40時間(=法定労働時間)を超えて労働させてはならないと規定しており、これを超えて労働を行わせた場合は違法となります。

しかし、36協定を締結して労働基準監督署長に届け出ている場合は、36協定で締結した労働時間の範囲であれば、使用者は、労働者に、法定労働時間を超えて労働させることが可能になります。

さらに、36協定によって延長することができる労働時間には、1ヶ月45時間まで、1年360時間まで、といった上限が定められていますが、36協定の中で「特別条項」を設けている場合は、一定要件のもと、これらの上限時間を超えてさらに時間外労働を行わせることが可能になります。

そのため、現状の法体制では、使用者が、労働者に、過労死の認定基準を超え、1ヶ月に100時間超や200時間超の時間外労働を行わせていたとしても、使用者に対して法違反を問えないこともあり得ます。

36協定を締結していても過労死への損害賠償責任は免れない

しかし、長時間の残業を行わせることができる36協定を締結すれば、その範囲内であればどれだけ残業を行わせても何も問題がないというわけではありません。

36協定には、協定の範囲内であれば法定労働時間を超えて労働を行わせても労働基準法第32条違反とはならないという、労働基準法上(刑事上)の免罰効果があるにすぎず、長時間労働によって生じる健康被害に対する労働契約法上(民事上)の安全配慮義務まで免れることができるわけではありません。

そのため、使用者は、労働者に36協定の範囲内でしか時間外労働を行わせていなかったとしても、労働者が脳疾患や心臓疾患を発症、または自殺し、その原因が長時間労働にあると認定された時は、労働者本人や遺族に対して損害賠償を行う責任を免れません。

長時間労働対策は事業運営におけるリスクマネジメントの観点からも重要

労働基準法第32条違反に対する罰則は、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金です。

法律を遵守することはもちろん重要ですが、長時間労働の問題を企業の安定経営の観点から捉えれば、使用者が考慮しなければならないのは、むしろ数千万単位の損害賠償に及ぶ可能性がある民事上の訴訟リスクのほうでしょう。

決算の帳簿上では毎年黒字を出していたとしても、常に長時間労働による訴訟リスクを抱えているようであれば、その会社はリスクマネジメントが不完全で、安定的かつ継続的な事業経営が出来ているとは言えないのではないでしょうか。

長時間労働が常態化している会社は、長時間労働が労務管理上だけの問題ではなく事業経営の基盤そのものを揺るがしかねない問題であると認識し、早急に対策を講じていただきたいと思います。

(関連記事:36協定の締結は従業員に残業を命じる根拠にはならない

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