賃金をドルで支払うと労働基準法第24条の「通貨払いの原則」の違反になる?

労働基準法第24条は、通貨払いの原則、直接払いの原則、全額払いの原則、毎月1回以上払いの原則、一定期日払いの原則のいわゆる「賃金支払いの5原則」を定めています。

§労働基準法

(賃金の支払)
第24条 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。

2 賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金(第89条において「臨時の賃金等」という。)については、この限りでない。

最近は外国人の就労者も増えており、中には賃金をドルで支払ってほしいという要望もあるようですが、賃金をドルなどの外貨で支払うことは「通貨払いの原則」に照らし合わせて問題はないのでしょうか。

通貨は「日本で強制通用力のある貨幣及び日本銀行券」を意味する

「通貨」の定義は、通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律第2条第3項に定められています。

§通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律

(通貨の額面価格の単位等)
第2条 通貨の額面価格の単位は円とし、その額面価格は一円の整数倍とする。

2 一円未満の金額の計算単位は、銭及び厘とする。この場合において、銭は円の百分の一をいい、厘は銭の十分の一をいう。

3 第一項に規定する通貨とは、貨幣及び日本銀行法(平成九年法律第八十九号)第46条第1項の規定により日本銀行が発行する銀行券をいう。

本条により、通貨は、日本において強制通用力のある貨幣及び日本銀行が発行する銀行券を意味します。

そのため、ドルなどの外貨によって賃金を支払うことは、例外として認められている労働協約によって定めている場合を除き、労基法第24条の通貨払いの原則に反することになります。

労働者の自由意思に基づいた合意がある場合は外貨による賃金支払いも可能

上記の通り、外貨によって賃金を支払うことは労働協約による定めがない限り原則法違反となりますが、労働協約がなくても外貨による賃金支払いが認められる場合もあります。

リーマン・ブラザーズ証券事件(H24.4.10 東京地裁判決)では、「賃金全額払の原則に関して、使用者が労働者の同意を得て相殺により賃金を控除することは、当該同意が労働者の自由意思に基づいてなされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときには、同原則に反するものではなく、有効であるとした最高裁判例(H2.11.26 第二小法廷判決)が存するところ、賃金通貨払の原則に関しても、基本的に同様の趣旨が妥当するというべきである」とし、自由意思に基づいた合意がある場合の通貨払いの原則の例外を認めました。

そのため、労働者がドルでの支払いを求めていてそれに応じる場合は、通貨払いの原則違反の問題が生じる可能性は低いと考えられます。

ただし、あくまでこれは例外です。

原則は日本円での支払いが必要であることを念頭に置き、労働者から申し出があれば直ちに支払方法の変更に応じられるようにしておくなど、労働者の自由意思に基づいた合意があることを担保できるようにしておくことが必要といえるでしょう。

おまけ

「営業社員に対するコミッションをドル建てで計算し、賃金支払いのときに円に換算して支払っている会社があるが、通貨払いの原則に反するのではないか」という質問がありました。

成果評価がドル建てで行われていたとしても、最終的に円に換算して支払われているのであれば、通貨払いの原則の問題にはなり得ないと考えられます。

もちろん、労使トラブル防止の観点からは、いつの時点のレートで円に換算するかを明確にしておくことなどが求められますが、換算ルールが明確になっていなかったとしてもそれはこの会社における賃金計算ルールの定義の曖昧さの問題であり、通貨払いの原則の問題とは言えません。

しいて労基法第24条違反が生じる可能性があるとすれば、「通貨払いの原則」ではなく「全額払いの原則」(10万円に換算して支払われるべきところ9万円に換算して支払われた)だと考えられます。