過労死再発防止対策として専門業務型裁量労働制を導入したNHKの問題点とは?

過労死再発防止対策として専門業務型裁量労働制を導入したNHKの問題点とは?

NHKは2017年12月26日、2017年4月から記者に導入していた専門業務型裁量労働制について、渋谷労働基準監督署から「適切な水準のみなし労働時間を設定すること」という指導票を12月14日付で交付されたことを発表しました。

専門業務型裁量労働制は、業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があると法令で定められている19業務に労働者を従事させた場合に、実際に働いた時間数に関わらず、あらかじめ定めたみなし労働時間だけ働いたものと取り扱う制度です。

例えば、みなし労働時間が「1日9時間」であれば、その日の実働時間が8時間であっても10時間であっても9時間の労働をしたものとみなされます。

残業代(割増賃金)の計算もみなし労働時間に基づいて行われることになり、上の例の場合であれば、実働時間に関わらず毎日1時間分の割増賃金が支払われることになります。

不適切なみなし労働時間は制度を悪用した残業代逃れになりかねない

渋谷労働基準監督署からNHKに対して行われた指導は、みなし労働時間が実際の労働時間と比較して著しく短く設定されていると認められるため、みなし労働時間の見直しを求めるものです。

本来、労使協定で定めるみなし時間は、「業務の遂行に通常必要となる時間」を定めるべきとなります。

例えば、平均すれば1日当たり平均10時間の勤務が必要な業務なのであれば、みなし労働時間は「1日10時間」と定める必要があります。

しかし、1日当たり平均10時間の勤務が必要と考えられる業務であるにもかかわらず、専門業務型裁量労働制を導入して「1日9時間」とみなすことにすれば、本来2時間分の残業代が支払われるべきところ1時間分の残業代しか支払われないことになります。

そのため、専門業務型裁量労働制を悪用し、通常必要と考えられる時間よりも短い時間をみなし労働時間として定めて残業代の支払いを免れようとする企業が後を絶ちません。

NHKに残業代逃れの意図があったかはわかりませんが、そのように捉えられても仕方がないものと言えます。

「是正勧告書」ではなく「指導票」が交付された理由

今回、渋谷労働基準監督署は、法律違反の是正を指示する際に交付する「是正勧告書」ではなく、法律違反ではないが改善を求める場合に交付する「指導票」による指導を行っています。

これは、制度の趣旨からすれば、業務の遂行に通常必要な時間をみなし労働時間として定めるべきではありますが、それを義務付ける規定がないためです。

そのため、実労働時間と著しく乖離したみなし労働時間が設定されていたとしても、それを法律違反として問うことはできず、改善を求めることしかできません。

法律違反として強い指導を行うことが出来ないことが、専門業務型裁量労働制の悪用による残業代逃れが蔓延している原因の一つとなっています。

専門業務型裁量労働制の導入しても過労死の再発防止対策にはならない

NHKは、2013年7月に女性記者(30代)が心不全で死亡して過労死認定されたことを受け、従来導入していた「事業場外労働のみなし労働時間制」の代わりに専門業務型裁量労働制を導入しました。

事業場外労働のみなし労働時間制は、社外で勤務していて労働時間を把握することが困難な場合に、その業務に通常必要とされる時間だけ働いたものとみなす制度です。

つまり、NHKは、過労死を受けて、「事業場外労働のみなし労働時間制」というみなし制度から、「専門業務型裁量労働制」という別のみなし制度に変更したことになります。

しかし、本来、過労死の再発防止対策としては実労働時間を削減するための対策が求められます。

労働時間のみなし方を変えても、管理上の労働時間が変わるだけで実労働時間が変わるわけではありませんから、あまり意味のない対策だと言わざるを得ません。

さらに、そのみなし時間が実働時間と乖離しているとなれば、本質的な対策が何も講じられていない可能性があります。

NHKが今度どのような対策を講じるのか注目していきたいと思います。

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