副業・兼業の普及促進で労働時間の合算ルール見直しへ!見直しで生じる新たな課題とは?

厚生労働省は、副業・兼業の普及に向け、労働基準法に定められている複数の勤務先での労働時間の合算ルールの見直しの検討に入ることを発表しました。(2017年11月27日)

2018年から厚生労働相の諮問機関である労働政策審議会で労使による議論を開始し、早ければ2020年の国会に法案を提出して、2021年から施行する予定としています。

それぞれの会社が自社の勤務時間だけで割増賃金を計算することが出来るように

労働時間の合算ルールは、労働基準法第38条第1項で規定されています。

§労働基準法

(時間計算)
第38条 労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。

割増賃金(残業代)は、法定労働時間(原則として1日8時間および週40時間)を超えて行わせた労働時間(時間外労働)に対して支払い義務が発生します。

このとき、複数の会社で勤務している労働者は、それぞれの会社ごとではなくすべての会社の労働時間を通算して法定労働時間を超えているかどうかを判断します。

例えば、本業の会社Aで8時間勤務した後に副業の会社Bで4時間勤務した場合、合算ルールによって会社Bの勤務は全て法定労働時間の8時間を超える時間外労働となり、会社Bに4時間分の割増賃金を支払う義務が生じます。

会社Bにとっては、通常の労働者を雇用する場合よりも人件費負担が増加することになるため、これが副業・兼業の普及を阻害する原因の一つとなっています。

合算ルールが見直されれば、本業での勤務時間に関係なく、自社の勤務時間が1日8時間や週40時間などの法定労働時間を超えたときにだけ割増賃金を支払えばよくなるため、副業・兼業者を雇いやすくなります。

人手不足で頭を悩ませている警備業やコンビニエンスストアなどにとっては朗報と言えるでしょう。

(関連記事:副業・兼業を原則容認へ!副業・兼業で残業代を支払わなければならない場合とは?

長時間労働の抑制や被害者救済の面からは問題が

労働時間の合算ルールの見直しは、政府が推進している副業・兼業の普及促進にとって大きな追い風となります。

一方、同じく政府が推し進めている長時間労働の削減の面からは逆風となり得ます。 合算ルールが見直されれば、それぞれの会社が自分の会社の労働時間のみを考えて勤務を命じることになるため、労働者の長時間労働が生じやすくなり、その発見も難しくなります。

また、責任の所在があいまいとなることで、長時間労働による健康障害や過労死などが発生しても労働者や遺族が十分な補償を受けられなくなる可能性があることも懸念されます。

ブラック企業に悪用される可能性も

合算ルールの見直しは、ブラック企業によって残業代逃れに悪用される可能性も考えられます。

経営者が複数の会社を設立してそれぞれの会社で労働者と雇用契約を締結し、曜日や時間帯を分けてそれぞれの会社が所定労働時間内の労働を行わせれば、両社の労働時間を合算する必要がなくなるため、実質的には同じ経営者の下で長時間労働が行われていても残業代(割増賃金)が発生しません。

このような方法で労働時間管理をあいまいにして残業代の支払いを免れようとする事業場は、現在も少なからず存在しているのですが、合算ルールが見直されれば、こういった脱法行為を規制することが出来なくなります。

副業・兼業の普及促進のためには合算ルールの見直しは必要ですが、様々な課題をクリアする必要がありそうです。