最近、長時間労働に関して、次のようなニュースが報じられました。

臓器移植や救急など高度医療を担う国立循環器病研究センター(国循、大阪府吹田市)が、勤務医や看護職員の時間外労働を「月300時間」まで可能にする労働基準法36条に基づく労使協定(36(サブロク)協定)を結んでいたことが、弁護士による情報公開請求でわかった。国の過労死認定基準(過労死ライン)の「月100時間」の3倍にあたる長さで、国循は今後協定内容を見直す方針という。

「平成29年9月7日 朝日新聞デジタルより」

日本放送協会(NHK)の記者だった女性(当時31)が2013年7月に心不全で死亡したのは過重労働が原因だったとして、14年に渋谷労働基準監督署(東京)が労災を認定していたことが分かった。NHKが4日、発表した。ピーク時の時間外労働は月150時間を超えていた。

「平成29年10月4日 朝日新聞デジタルより」

どちらの記事にも「時間外労働」という用語が出てきますが、「時間外労働」は大きく分けると2種類の使われ方があり、この2つの記事で用いられている「時間外労働」は別のものになります。

本来の時間外労働である「労働基準法上の時間外労働」

1つ目は、36協定届で定める限度時間や時間外手当(割増賃金)を支払うときの基準となる「労働基準法上の時間外労働」です。

こちらが、本来の「時間外労働」となります。

労働基準法上の時間外労働は、原則として「1日8時間または週40時間(=法定労働時間)を超えて労働した時間」ですが、変形労働時間制を導入している場合や、特例事業場(週の法定労働時間が44時間となる事業場)に該当する場合などは、その制度や条件に基づいて時間外労働となる時間が決まります。

例えば、「1ヵ月単位の変形労働時間制」を導入している場合には、1日8時間を超えて労働させたとしても、あらかじめ定めた所定労働時間数までは時間外労働として取り扱われませんし、「フレックスタイム制」を導入している場合には、それぞれの勤務日や週の労働時間がどれだけ長くても、月の清算時間を超えるまでは時間外労働とはなりません。

労働基準法第41条に規定する管理監督者に該当する労働者であれば、時間外労働は全く発生しません。

つまり、労働基準法上の時間外労働は、月の総労働時間数が同じであっても、導入されている労働時間制度や条件などによって時間外労働となる時間数が異なることになります。

(関連記事:労働基準法に定められている「4つの変形労働時間制」とは?

また、労働基準法上の時間外労働には、所定休日(法定休日を超えて与えられている休日)の労働時間は含まれますが、法定休日(週1日又は4週4日の休日)の労働時間は含まれません

36協定届(時間外労働・休日労働に関する協定届)では、上段に時間外労働の限度時間、下段に休日労働の限度時間(回数等)を定めますが、所定休日に行わせた労働時間は上段の「時間外労働」として取り扱われ、法定休日に行わせた労働時間は下段の「休日労働」として取り扱われます。

健康障害防止の観点で必要となる「過重労働対策上の時間外労働」

2つ目は、長時間労働による健康障害の防止の観点から労働時間数の判断基準とされる「過重労働対策上の時間外労働」です。

過重労働対策上の時間外労働は、「1週あたり40時間を超えて行わせた労働時間」となります。

「1週あたり40時間」を1ヶ月あたりの労働時間数に換算すると、31日の月であれば約177時間、30日の月であれば約171時間、28日の月であれば168時間となります。

過重労働対策上の時間外労働は、ほとんどの場合1ヶ月単位で集計しますので、これらの時間を超えて行わせた労働時間が過重労働対策上の時間外労働となります。

過重労働対策上の時間外労働は、変形労働時間制の導入の有無や特例事業場の該当の有無などによって集計方法は変わりません。

また、所定休日、法定休日に関わらず、休日の労働時間も全て含まれます

つまり、過重労働対策上の時間外労働は、純粋にその月の労働時間の長さを見るためのものであり、月の総労働時間数が同じであれば時間外労働となる時間数も同じになります。

過重労働対策上の時間外労働は、本来は「時間外・休日労働時間」と表記されるべきものが、単に「時間外労働」と表記されているものとも言えます。

「残業時間」と「時間外労働」の関係

「残業時間」は、法律上の用語ではないため明確な定義はありませんが、一般的には終業時刻を越えて行った労働を「残業時間」と呼んでいるのではないでしょうか。

その意味合いとしては「労働基準法上の時間外労働」に近いのですが、終業時刻を越えて労働したとしても、法定労働時間(8時間)を超えるまでは「労働基準法上の時間外労働」にはなりません。

例えば、所定労働時間が7時間の会社で9時間の勤務をした場合には、「残業時間」は2時間(=7時間を超える労働時間)となりますが、「労働基準法上の時間外労働」は1時間(=8時間を超える労働時間)となり、差異が生じます。

また、所定休日(法定休日以外の休日)に行った労働は、前述の通り「労働基準法上の時間外労働」となりますが、これを「残業時間」と呼ぶことはほとんどないでしょう。

「残業時間」と「時間外労働」は、似て非なるものであり、それぞれが指し示す労働時間の範囲は必ずしも一致しません。

2つのニュースで出てきた「時間外労働」はどっち?

記事冒頭で引用した2つのニュースだと、国立循環器病研究センターの記事で用いられている「時間外労働」は、36協定で定める限度時間に関するものであることから「労働基準法上の時間外労働」が基準となります。

一方、NHKの記事で用いられている「時間外労働」は、長時間労働による健康障害(過労死)を原因とする労災認定に関するものであり、長時間労働による健康障害の有無を見る必要があることから、「過重労働対策上の時間外労働」が基準となります。

なお、いわゆる「過労死ライン」である「月100時間超の時間外労働」は、「過重労働対策上の時間外労働」です。

36協定で定めた限度時間までしか時間外労働(=労働基準法上の時間外労働)を行わせていなくても、休日労働も含めた「過重労働対策上の時間外労働」が過労死ラインを超えてしまっているというケースもあり得ます。

状況に応じて「時間外労働」の意味を正しく使い分けましょう。