労働基準法に定められている「労使協定」の種類と届出義務の違いは?

労働基準法には、「時間外労働・休日労働に関する協定」(いわゆる「36協定」)をはじめとする様々な「労使協定」について規定されています。

労使協定の締結によって生じる効力と届出義務について整理したいと思います。

労使協定は使用者と労働者代表の間で締結する

労使協定は、使用者と労働者代表との間で、必ず書面によって締結します。

労働者代表は、その事業場に労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合(過半数労働組合)、過半数労働組合がない場合はその事業場に所属する労働者の過半数を代表する者(過半数代表者)がなります。

使用者又は労働者代表の一方又は両方が協定当事者としての要件を満たしていない場合には、労基法各条に基づく労使協定としての効力は生じません。

実務においては、労働者代表が協定当事者としての要件を満たしておらず、労使協定の効力を否定されることも少なくないため、留意が必要です。

例えば、

  • 過半数に満たない労働組合との間で締結した場合
  • 過半数の信任によって選出されていない労働者代表との間で締結した場合
  • 過半数労働組合があるにもかかわらず過半数代表者との間で締結した場合

などは有効な労使協定とはならず、効力を否定されることになります。

労使協定によって刑事上の「免罰効果」が生じる

労使協定の効力は、その協定に定めるところによって労働させても労基法に違反しない(罰則に問われない)という刑事上の「免罰効果」です。

例えば、労基法は原則として時間外労働(1日8時間又は週40時間を超える労働)や休日労働を行わせることを禁止しており、違反した場合には「6箇月以下の懲役又は30万円以下の罰金」に処せられます。

しかし、労使の協定当事者の間で36協定を締結した場合には、協定で定める範囲においては時間外労働や休日労働を行わせても法違反を問われません。

本来は法違反となる時間外労働や休日労働を行わせても法違反に問われない」ことが36協定によって生じる効果(免罰効果)となります。

労使協定に民事上の権利義務を生じさせる効果はない

一方、労使協定に、使用者と労働者の間における民事上の権利義務関係を発生させる効果はありません

例えば、36協定は、「時間外労働や休日労働を命じても法違反にならない状況を作る」だけであって、「使用者に時間外労働や休日労働を命じる権利を認め、労働者に命令に従う義務を負わせる」という効果は生じません。

使用者が労働者に時間外労働を命じるためには、就業規則や雇用契約書にその根拠(使用者は時間外労働を命じる権利があり、労働者はその命令に従って時間外労働を行わなければならないこと)を定めておく必要があります(S63.1.1基発1号)。

これらの根拠規定がない場合や、個別の労働者と「時間外労働は行わない」という合意(労働契約の締結)をしている場合には、使用者が時間外労働を命じる権利はありませんし、労働者は当該命令に従う義務を負いません。

労使協定は届出が必要なものと不要なものがある。届出が効力発生要件となるのは36協定のみ。

労使協定は、所轄労働基準監督署長への届出義務があるものと届出の必要がないものがあり、

  1. 届出が効力発生要件とされているもの
  2. 届出が義務付けられているもの
  3. 届出の必要がないもの

の3つに分けることができます。

労使協定が必要な場合 根拠条文 届出の要否
労働者の貯蓄金をその委託を受けて管理する場合 第18条
賃金の一部を控除して支払おうとする場合 第24条 ×
1か月単位の変形労働時間制によって労働させる場合 第32条の2
フレックスタイム制によって労働させる場合 第32条の3 △(清算期間が1か月超3か月以下の場合のみ届出必要)
1年単位の変形労働時間制によって労働させる場合 第32条の4
1週間単位の非定型的変形労働時間制によって労働させる場合 第32条の5
休憩時間を一斉に与えない場合 第34条 ×
時間外・休日労働を行わせる場合 第36条
割増賃金の引き上げに代えて特別な有給休暇を付与する場合 第37条 ×
みなし労働時間を労使協定によって定めようとする場合 第38条の2
専門業務型裁量労働制を採用する場合 第38条の3
年次有給休暇を時間単位で付与する場合 第39条第4項 ×
年次有給休暇を計画的付与によって付与する場合 第39条第6項 ×
年次有給休暇を取得した日の賃金を健康保険標準報酬日額で支払う場合 第39条第7項 ×

◎:届出が効力発生要件とされているもの  ○:届出が義務付けられているもの  ×:届出の必要がないもの

「1.届出が効力発生要件とされているもの」は、36協定のみが該当します。

労使間で協定を締結するだけでなく、所轄労働基準監督署長に届け出て初めて労使協定としての効力が生じます。

届出をしなければ適法に時間外労働や休日労働を行わせることができませんので、届出をすることなく時間外労働や休日労働を行わせた場合には、届出義務違反ではなく32条違反(違法な時間外労働)や35条違反(違法な休日労働)に処せられます。

「2.届出が義務付けられているもの」は、労使協定の効力発生要件とは別に単なる届出義務が課せられているものであり、届出を行わなくても労使協定を締結した時点で労使協定の効力が生じますが、届出を行わなければ「届出義務違反」として法違反に処せられることになります。

「3.届出の必要がないもの」は、労使協定を締結した時点で効力が発生し、そもそも届出義務が課されていません。

ただし、労働者への周知義務及び保存義務はありますので、書面によって協定をしていない場合(労使協定書を作成していない場合)は法違反に処せられます。

フレックスタイム制に関する労使協定は、清算期間が1ヵ月以内の場合は届出不要ですが、平成31年4月1日から施行される改正労基法で認められることになった「1ヶ月を超え3カ月以内の清算期間」を定めた場合は届出が必要であることに留意が必要です。