労働基準法第32条は「1日8時間、週40時間」を法定労働時間として定めていますが、一定の業種及び規模に該当する事業場については「1日8時間、週44時間」まで労働させることが可能となっています。

この事業場を「特例措置対象事業場」と言います。

特例措置対象事業場の要件

特例措置対象事業場は、次に掲げる業種に該当する常時10人未満の労働者を使用する事業場が該当します。
商業 卸売業、小売業、理美容業、倉庫業、その他の商業
映画・演劇業 映画の映写、演劇、その他興業の事業
保健衛生業 病院、診療所、社会福祉施設、浴場業、その他の保健衛生業
接客娯楽業 旅館、飲食店、ゴルフ場、公園・遊園地、その他の接客娯楽業

上記に該当する事業場は、法律上当然に特例措置対象事業場として取り扱われます

届出や許可申請などの手続きは不要です。

「常時使用する労働者」とは?

労働者数は事業場ごと(店舗ごと)にカウントします。

全社で100人の労働者を使用していたとしても、各店舗で常時10人未満の労働者しか使用していない場合は特例措置対象事業場となります。

同じ会社が運営している店舗であっても、常時10人未満を使用している店舗は特例措置対象事業場となり、常時10人以上を使用している店舗は特例措置対象事業場になりません。

また、パートやアルバイトなどの有期契約の労働者であっても、通常の事業運営に必要な労働者であれば常時使用する労働者としてカウントします。

繁忙期に一時的に雇い入れる労働者であれば、常時使用する労働者に含まれません。

特例措置対象事業場の根拠規定

労働基準法第40条は、労働時間と休憩に関する規定の特例について定めています。

§労働基準法

(労働時間及び休憩の特例)
第40条 
別表第1第1号から第3号まで、第6号及び第7号に掲げる事業以外の事業で、公衆の不便を避けるために必要なものその他特殊の必要あるものについては、その必要避くべからざる限度で、第32条から第32条の5までの労働時間及び第34条の休憩に関する規定について、厚生労働省令で別段の定めをすることができる。

(別表第1)
  1. 物の製造、改造、加工、修理、洗浄、選別、包装、装飾、仕上げ、販売のためにする仕立て、破壊若しくは解体又は材料の変造の事業(電気、ガス又は各種動力の発生、変更若しくは伝導の事業及び水道の事業を含む。)
  2. 鉱業、石切り業その他土石又は鉱物採取の事業
  3. 土木、建築その他工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊、解体又はその準備の事業
  4. 道路、鉄道、軌道、索道、船舶又は航空機による旅客又は貨物の運送の事業
  5. ドック、船舶、岸壁、波止場、停車場又は倉庫における貨物の取扱いの事業
  6. 土地の耕作若しくは開墾又は植物の栽植、栽培、採取若しくは伐採の事業その他農林の事業
  7. 動物の飼育又は水産動植物の採捕若しくは養殖の事業その他の畜産、養蚕又は水産の事業
  8. 物品の販売、配給、保管若しくは賃貸又は理容の事業(※)
  9. 金融、保険、媒介、周旋、集金、案内又は広告の事業
  10. 映画の製作又は映写、演劇その他興行の事業(※)
  11. 郵便、信書便又は電気通信の事業
  12. 教育、研究又は調査の事業
  13. 病者又は虚弱者の治療、看護その他保健衛生の事業(※)
  14. 旅館、料理店、飲食店、接客業又は娯楽場の事業(※)
  15. 焼却、清掃又はと畜場の事業

同規定により、一部の業種(1号~3号、6号、7号)を除き、厚生労働省令(労働基準法施行規則、以下「労基則」)で労働時間と休憩に関する特例を定めることが可能です。

本条を受けて、労基則第25条の2に次の規定が定められています。

§労働基準法施行規則

(労働時間の特例)
第25条の2 使用者は、第1第8、第10(映画の製作の事業を除く。)、第13及び第14に掲げる事業のうち常時10未満労働者使用するものについては、第32規定にかかわらず、1週間について44時間、1日について8時間まで労働させることができる。

本条が根拠条文となり、上記別表1の(※)がついている業種(映画の製作事業を除く)で常時10人未満の労働者を使用する事業場が特例措置対象事業場となります。

特例措置対象事業場の効果

法定労働時間を超える労働は「時間外労働」となり、36協定届(時間外・休日労働に関する協定届)の届出や割増賃金(時間外手当)の支払いが必要です。

通常の事業場は、原則として1日8時間または週40時間を超えて行わせた労働が時間外労働となりますが、特例措置対象事業場は1日8時間または週44時間を超えるまでは時間外労働として取り扱われません。

そのため、特例措置対象事業場では、「月~金曜日が8時間、土曜日が4時間(=週44時間)」や「月~土曜日で1日7時間(=週42時間)」という労働時間を所定労働時間内の労働として行わせること(割増賃金ではなく通常の賃金で行わせること)が可能となります。

特例措置対象事業場が変形労働時間制を導入した場合の取扱い

労働基準法には4つの変形労働時間制が規定されています。

  • 1か月単位の変形労働時間制(第32条の2)
  • フレックスタイム制(第32条の3)
  • 1年単位の変形労働時間制(第32条の4)
  • 1週間単位の非定型的変形労働時間制(第32条の5)

(関連記事:労働基準法に定められている「4つの変形労働時間制」とは?

特例措置対象事業場がこれらの変形労働時間制を導入した場合の取扱いは、次のようになります。

1か月単位の変形労働時間制とフレックスタイム制は「週平均44時間以内」に出来る

特例措置対象事業場が、「1か月単位の変形労働時間制」または「フレックスタイム制」を導入する場合には、通常「週平均40時間以内」とするところを「週平均44時間以内」とすることが出来ます。

週平均40時間を1か月の労働時間に換算すると、31日の月は約177時間、30日の月は約171時間、28日の月は160時間となります。

一方、週平均44時間を1か月の労働時間に換算すると、31日の月は約194時間、30日の月は約188時間、28日の月は176時間となります。

そのため、1か月単位の変形労働時間制は、通常、31日の月であれば月の所定労働時間が約177時間以内に収まるように各日及び各週の労働時間を定める必要がありますが、特例措置対象事業場の場合には、約194時間以内に収まるように各日及び各週の労働時間を定めることが出来ます。

また、フレックスタイム制は、通常、31日の月であれば月の総労働時間が約177時間を超えた場合にその超えた時間に対して時間外手当を支払う必要がありますが、特例措置対象事業場の場合は、約194時間を超えて行わせた労働に対して時間外手当を支払えば足ります。

1年単位の変形労働時間制と1週間単位の非定型的変形労働時間制は「週44時間」の特例が受けられなくなる

「1年単位の変形労働時間制」または「1週間単位の非定型的変形労働時間制」を導入する場合には、特例措置対象事業場としての「週44時間」の特例が適用されなくなります。

1年単位の変形労働時間制であれば、「週平均40時間以内」となるように各日及び各週の労働時間を定める必要があり、1週間単位の非定型的変形労働時間制であれば、週40時間を超えた部分から時間外手当の支払いが必要です。

長時間労働による健康障害防止対策上の取扱い

過労死の労災認定や長時間労働による健康障害防止対策の指導においては、「1か月で100時間超」や「2~8か月の平均で80時間超」の時間外労働が一つの基準となっています。

長時間労働による健康障害防止の観点から見る場合の「時間外労働」は、「月当たり週平均40時間を超えて行わせた労働時間の長さ」であり、これは特例措置対象事業場であっても変わりません

例えば、31日の月であれば、「1か月で100時間超の時間外労働を行っているかどうか」は、特例措置対象事業場であるかどうかに関わらず「月の総労働時間が約277時間(=約177時間+100時間)を超えていないかどうか」が判断基準となります。