多くの会社の就業規則には、有給休暇の申請期限が定められています。
しかし、実務においては、急病などの理由で当日に有給休暇の申請が行われることが少なくありません。
当日申請があった場合、申請期限までに申請がなかったことを理由に有給休暇を認めないことは可能なのでしょうか?
就業規則に合理的な申請期限を定めることは可能
有給休暇について規定している労働基準法第39条は、労働者に、年次有給休暇をいつ取得するかを指定する「時季指定権」を認める一方、会社には、事業の正常な運営を妨げる場合には取得時季を変更することができる「時季変更権」を認めています。
労働者が時季指定権を行使すべき時期については、法律上の定めは何もありませんが、「会社が時季変更権を行使するための時間的余裕を置いてなされるべきことは事柄の性質上当然である」とした判例(電電公社此花電報電話局事件 最高裁 S57.3.18)があり、時季変更権の行使について判断するために必要な「合理的な期間」であれば、有給休暇の申請期限を設けることも可能です。
そのため、就業規則で定められている申請期限が合理的な期間である限り、申請期限までに行われなかった有給休暇の申請について認めなかったとしても違法ではありません。
また、労働基準法では、労働日は原則として0時から24時までの暦日計算となるため、当日申請は、それが始業時刻前に行われたものであっても、法律上は事後申請の扱いとなります。
この点からも、当日申請に対して会社が有給休暇を取得させないことは、法違反とは言えません。
有給休暇の当日申請却下が「不当と判断されるケース」もある
ただし、申請期限までに行われなかった申請であれば、必ず時季変更権を行使できる「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当するわけではありません。
当該労働者の担当する作業内容、性質、繁閑の程度などを総合的に勘案した結果、代替要員の確保などの必要性がなく、事業の正常な運営を妨げるとは言えない場合には、申請期限後の申請であっても、有給休暇を取得させないことが不当と判断される可能性があります。
また、当日申請は、法律上事後申請となりますが、前出の電電公社此花電報電話局事件では、始業時刻20分前に行われた申請について、「労働者の休暇の請求自体がその指定した休暇期間の始期にきわめて接近してされたため~」と述べており、始業時刻を「休暇期間の始期」とし、事後申請との取扱いはしていません。
実質的に事前(始業前)に行われている申請を、法律上は事後申請であることを理由に拒否することが、不当と判断される場合もあり得ます。
当日申請の却下に違法性がなくとも「個別の判断」が必要
結局のところ、当日に行われた有給休暇の申請であっても、申請期限後の申請であることや当日申請であることを理由に、一律にその取得を拒否することはできず、事案ごとに個別に取得の可否を判断する必要があります。
会社のルールとしては、当日申請がやむを得ないことであることを確認するために、医療機関のレシートや診断書などの提出を求められるようにしておき、申請を却下することの妥当性や必要性を慎重に判断することを心掛けましょう。