「月45時間」を超える時間外労働は労災認定される可能性あり!

NHKは、同局で勤務していた30代の女性記者が2013年7月に心不全で死亡し、その原因が過重労働によるものだったとして労災認定されていたことを発表しました。

「月100時間超」や「2~6か月平均で80時間超」の時間外労働は、いわゆる「過労死ライン」と呼ばれてよく知られています。

女性記者の時間外労働は、亡くなる直前の2013年6月下旬から7月下旬までの1ヶ月間では159時間37分、5月下旬からの1ヶ月間では146時間57分に達しており、過労死ラインである月100時間を大きく超えていました。

過労死ラインは「過労死とされない時間数」ではない

過労死や過労自殺の労災認定に関するニュースが連日報じられていますが、その多くはNHKのケースと同様に過労死ラインを大きく上回る時間外労働を行わせていたものです。

しかし、過労死ラインを下回る時間外労働であっても労災認定が行われているケースも存在します。

福岡高裁宮崎支部は2017年8月23日、宮崎県内で食材卸売業を営む会社の男性社員が2012年に心臓疾患で死亡し、宮崎労働基準監督署が労災認定をしなかったことの取り消しを遺族が求めていた裁判の控訴審で、一審判決を支持して労災を認める判決を言い渡しました。

この男性社員の発症前6か月間の平均時間外労働時間は約56時間で、月平均80時間を大きく下回っていましたが、亡くなる1週間ほど前から、早朝からの片道4時間の高速バス乗車の日帰り出張などが3つ集中していたことや、重要な取引先からのクレーム対応が重なっていたことなどが総合的に考慮され、心身ともに過重な負荷が生じていたとして労災が認められました。

過重労働による労災認定は「脳・心臓疾患」と「精神障害」がある

過重労働を原因とする労災認定は、「脳・心臓疾患」を発症したケースと「精神障害」を発症したケースの2つに大きく分けられ、それぞれに認定基準が定められています。

【参考:脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。) の認定基準】 【参考:心理的負荷による精神障害の認定基準

「過労死」とは、過重労働を原因として脳梗塞や心筋梗塞などの脳・心臓疾患を発症して死亡した場合をいい、「過労自殺」は、過重労働を原因としてうつ病や適応障害などを発症して自殺に及んだ場合をいいます。

男性社員やNHKの女性記者は、脳・心臓疾患の認定基準に基づく労災認定です。

一方、精神障害の認定基準に基づいて労災認定されたケースには、電通の女性社員が自殺したケース(2015年12月)や新国立競技場で建設工事に従事していた男性社員が自殺したケース(2017年3月)などがあります。

脳・心臓疾患は月45時間超の時間外労働で労災認定される可能性がある

男性社員の労災認定の基準となった脳・心臓疾患の認定基準では「異常な出来事」「短期間の過重業務」「長期間の過重業務」の3つの認定要件が設けられています。

このうち「長期間の過重業務」では、労働時間の評価の目安が次のように定められています。

【労働時間の評価の目安】

  1. 発症前1か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね45時間を超える時間外労働が認められない場合は、業務と発症との関連性が弱いと評価できること
  2. おおむね45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど、業務と発症の関連性が徐々に強まると評価できること
  3. 発症前1か月間におおむね100時間または発症前2か月ないし6か月にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価されること

3番目の評価基準は過労死ラインの根拠となりますが、2番目の評価基準で、月45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど業務と発症との関連性が徐々に強まるとされています。

そのため、過労死ラインを越えていなくても、月45時間を超える時間外労働を行わせている場合には、業務と発症との関連性が認められて労災認定される可能性があります。

「労働時間の長さ」だけでなく「労働時間以外の負荷要因」も考慮される

脳・心臓疾患の労災認定では、「労働時間の長さ」だけでなく「労働時間以外の負荷要因」も考慮されます。

「労働時間以外の負荷要因」には次のようなものがあります。

【労働時間以外の負荷要因】

  1. 不規則な勤務
  2. 拘束時間の長い勤務
  3. 出張の多い勤務
  4. 交代制勤務・深夜勤務
  5. 作業環境(温度環境、騒音、時差)
  6. 精神的緊張を伴う業務(危険作業、トラブル対応、重大責任など)

これらの負荷要因が認められる場合には、時間外労働が比較的短い場合であっても労災認定される可能性が高くなります。

男性社員の場合、「出張の多い業務」と「精神的緊張を伴う業務(クレーム対応)」に該当していたため、心身ともに過重な負荷が生じていたと認められて労災認定されました。

月80時間を超える時間外労働は行っていなくても、月45時間超の時間外労働を行っているという労働者は決して少なくありません。

過労死ラインは、労働時間の長さだけで過労死と認定される可能性のある時間数の基準であり、過労死と認定されない基準ではありません。

過労死や過労自殺を防止するためには、月100時間や月平均80時間でなく、月45時間を意識した対策が求められます。