残業や休日労働における「就業規則」と「36協定」のそれぞれの役割とは?

ある会社の労務担当者の方から 「社員に時間外労働(残業)を行わせるにあたって、就業規則と36協定届(時間外労働及び休日労働に関する協定届)はそれぞれどういう意味があるのか。」 というご質問をいただきました。

就業規則と36協定届は、どちらも社員に時間外労働や休日労働を行わせるために必要となるものですが、その役割は全く異なります。

会社が社員に時間外労働や休日労働を行わせる上で、就業規則と36協定届はそれぞれどのような役割を持っているのでしょうか。

就業規則は時間外労働や休日労働を命じる根拠となる

労働基準法第89条は、常時10人以上の労働者を使用する事業場について、その使用者に対し、就業規則を作成して所轄労働基準監督署(長)に届け出ることを義務付けています。

就業規則は、いわば「会社のルールブック」であり、労使双方の権利義務を規定しているものです。

労働契約(雇用契約)も民事上の「契約」のひとつですので、契約当時者(使用者と労働者)は、法律の定めがある場合を除けば、契約内容に含まれていないことを相手方に要求する権利はありませんし、要求されてもそれに従う義務はありません。

会社が社員に時間外労働や休日労働を命じる権利(社員が時間外労働や休日労働を行う義務)も法律上当然に生じるものではないため、労働契約の内容に時間外労働や休日労働を命じるための根拠となる規定が盛り込まれている必要があります。

そのため、通常、就業規則の中には、 「所定労働時間を超え、又は所定休日に労働させることがある」 という趣旨の規定が設けられています。

つまり、就業規則は、会社が社員に対して時間外労働や休日労働を命じるための根拠としての役割を持っています。

なお、労使双方の権利義務を規定するものには、就業規則以外にも、個別の労働者と締結する「労働契約書」や労働組合と締結する「労働協約」などがあり、これらで時間外労働や休日労働を命じる根拠規定を定めることも可能です。

36協定には時間外労働や休日労働を行わせても罰せられない「免罰効果」がある

36協定届は、その名の通り労働基準法第36条に規定されている労使協定届です。

労働基準法は、原則として1日8時間、週40時間(法定労働時間)を超えて社員に勤務を行わせることを禁止しており、これらの時間を超えて労働を行わせた場合は、それが例え1時間であったとしても会社は刑罰の対象となります。

しかし、会社と労働者の過半数代表者の間で36協定を締結し、所轄労働基準監督署長に届け出た場合には、36協定で定めた限度時間(月45時間や年360時間など)までは法定労働時間を超えて時間外労働や休日労働を行わせても刑罰の対象となりません。

これを、労使協定の「免罰効果」と言います。

つまり、36協定届は、本来は法律違反である時間外労働や休日労働を適法に行わせることが出来るようにする役割を持っています。

一方、36協定を締結していることは、会社が社員に対して時間外労働や休日労働を命じる根拠とはなりません。

36協定は、労働基準法違反への刑事処分を行う国(労働基準監督署)に対しては効力(免罰効果)をもっていますが、労働者に対しては何の拘束力も生じません。

36協定を締結していたとしても、時間外労働や休日労働を命じるためには、就業規則などで根拠規定が定められている必要があります。

就業規則は民事上の役割を持ち、36協定は刑事上の役割を持つ

以上を整理すると、「36協定が締結されているが就業規則等に根拠規定がない」場合には、会社が社員に対して時間外労働や休日労働を命じる権利がないという民事上の問題が生じ、逆に「就業規則等に根拠規定があるが36協定が締結されていない」場合には、時間外労働や休日労働を命じる権利はあるけれども罰則の対象となるという刑事上の問題が生じます。

つまり、会社が社員に時間外労働や休日労働を行わせるにあたっては、就業規則は「労働者に対する民事上の役割」を持ち、36協定届は「国(労働基準監督署)に対する刑事上の役割」を持っていると言えます。

なお、「就業規則等に根拠規定があるが36協定が締結されていない」場合は、労基法には法に定める基準に達しない労働契約の部分を無効にする「強行的補充的効力」があるため、違法な残業を命じている当該根拠規定は無効とされることから、民事上も適法に残業を命じることができなくなります。

時間外労働や休日労働における就業規則と36協定届の役割の違いを押さえておきましょう。