年金の受給を開始した後も会社勤めを行った場合、会社から受ける報酬(賃金)の額に応じて老齢厚生年金の支給額を減額(支給停止)されることがあります。
この仕組みを「在職老齢年金制度」と言います。 いったいどれぐらいの減額がされるのでしょうか。
支給停止される年金額は65歳未満と65歳以上で異なる
支給停止される年金額の計算方法は、65歳未満の年金受給者と65歳以上の年金受給者で異なります。
65歳未満の年金受給者の支給停止額
65歳未満の年金受給者の支給停止額(年額)は、基本月額(≒支払われる年金の月額相当額)と総報酬月額相当額(≒月当たりの報酬相当額)によって次のようになります。(平成30年6月現在)
65歳未満の支給停止額の仕組みは、
- 原則として、年金支給額と賃金額の合計で月28万を超えた部分の半分が支給停止額となる
- 年金支給額が多い場合、28万円を超える部分は支給停止の対象としない(年金が多いことを理由に支給停止することになるため)
- 支払われる報酬額が多い場合、46万円を超える部分の全額が支給停止額に反映される(多額の報酬を受け取っているのであれば年金支給はしない)
というイメージです。
65歳以上の年金受給者の支給停止額
65歳以上の年金受給者の支給停止額(年額)は、次のようになります。(平成30年6月現在)
基本月額(年金額)は、老齢厚生年金の報酬比例部分のみが対象となり、老齢厚生年金の定額部分は含みません。
イメージとしては、年金支給額(報酬比例部分)と賃金額の合計が46万円を超えると、超えた金額の半分が支給停止されます。
65歳未満の場合と比べて計算方法が随分シンプルになりました。
支給停止が行われることになる年金支給額と賃金額の合計額も、65歳未満のときよりも大幅に引き上げられています。
なお、計算式に出てくる28万円や46万円という金額は、見直しが行われることがあります。
在職老齢年金を計算する際の留意点
会社から受ける報酬は「標準報酬月額」「標準賞与月額」が基準
在職老齢年金では、会社から支払われる報酬額が多いほど支給停止額は大きくなります。
支給停止額の計算式の中で会社から支払われる報酬額に当たるのが「総報酬月額相当額」ですが、総報酬月額相当額は、会社から支払われる報酬額そのものではなく、「標準報酬月額」や「標準賞与額」を基準として決定されます。
厚生年金の標準報酬月額は63万円(31等級)のため、もし会社から月100万円の報酬を受け取っていたとしても、支給停止額の計算の際には、この月の報酬額は63万円として取り扱われることになります。
老齢厚生年金(固定部分)や老齢基礎年金は支給停止の対象外
まず、在職老齢年金制度で支給停止の対象となる年金は、
- 特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分)
- 特別支給の老齢厚生年金(定額部分)
- 老齢厚生年金(報酬比例部分)
のみであり、老齢厚生年金(固定部分)や老齢基礎年金は、支給停止の対象とはなりません。
そのため、厚生年金に加入したことがなく老齢基礎年金のみを受給する人であれば、60歳以上で会社勤めをすることになっても、年金の支給停止はされません。
加給年金は老齢厚生年金が全額支給停止になった場合にのみ支給停止になる
一定要件に該当する扶養者がいる場合に老齢厚生年金に加算して支給される「加給年金」は、支給停止額の計算式の年金額(基本月額)には含まれません。
在職老齢年金制度により老齢厚生年金の一部が支給停止になったとしても、加給年金は全額支給されます。
ただし、老齢厚生年金の全額が支給停止になった場合は加給年金も全額支給停止になります。
加給年金は老齢厚生年金に「加算」して支払われるものであるため、加算対象となる老齢厚生年金の支給がないのであれば加給年金も支給しないということです。
会社勤めをしても厚生年金に加入しない場合は支給停止にならない
在職老齢年金制度は、会社勤めをして厚生年金に加入しながら老齢厚生年金を受給する人が対象になります。
そのため、パート勤務などで厚生年金に加入しない場合は、会社から賃金が支払われたとしても年金の支給停止は行われません。
また、自分自身が個人事業主となって収入を得ている場合も厚生年金に加入していませんので、在職老齢年金制度による支給停止はありません。
支給繰下げを行った場合も支給停止は行われる
老齢厚生年金は、支給開始年齢を65歳から最大5年間繰り下げることが出来る制度が設けられています。
支給開始年齢を1ヶ月繰り下げる毎に年金支給額が0.7%増加し、5年間繰り下げて支給開始年齢を70歳にした場合は、以降の年金支給額が42%(=0.7%×60月)増加します。
中には、「働きながら年金を受給すると年金が減額されてしまうのなら、働いている間は年金を受給しないで繰り下げてしまおう」と考える方もいますが、支給繰下げによる加算は、在職老齢年金によって計算した年金支給額を基準に行われるため、支給繰下げによって支給停止を回避することは出来ません。
例えば、老齢厚生年金(報酬比例部分)の支給額が年100万円、在職老齢年金制度による支給停止額が年20万円の人が5年の支給繰下げを行った場合、42%の増加は、100万円ではなく80万円(=100万円-20万円)に対して行われ、支給増加額は33.6万円(=80万円×42%)となります。