年金の受給開始を70歳超も選択可能とする方針を決定!いつから年金をもらい始めるべき?

平成30年2月16日、政府が高齢社会対策大綱を閣議決定しました。

平成8年7月に初めて高齢社会対策大綱が策定されてから、今回で3回目の見直しとなります。

今回の見直しでは、現在のように65歳以上を一律に高齢者とすることが現実的でなくなりつつあるとし、画一的に高齢者として取り扱う方針からの転換を打ち出していることが大きな特徴となっています。

年金の受給開始年齢を70歳超に拡大する方針を明記

大綱には、国民年金や厚生年金の受給開始年齢を70歳超まで繰り下げることができる制度を検討することが明記されました。

現在の制度では、65歳を原則の受給開始年齢として、60歳まで受給開始年齢を繰り上げ、または、70歳まで受給開始年齢を繰り下げることが可能となっています。

受給開始年齢を繰り下げた場合、「繰下げ月数×0.7%」の割合で年金支給額が増額されます。

例えば、受給開始年齢を1年繰り下げて66歳の誕生日から受け取ることにした場合には、8.4%(=12月×0.7%)が増額されます。

70歳の誕生日まで繰り下げた場合は、42%(=60月×0.7%)の増額です。

現在は70歳まで繰り下げた場合の42%(=60%×0.7%)が増額の上限ですが、制度変更によって受給開始年齢をさらに繰り下げることができるようになれば、さらに増額率が上がるケースも発生することになります。

最も多くの年金をもらえる受給開始年齢は?

法改正によって受給開始年齢を70歳以降まで繰り下げることが選択するようになった場合、死ぬまでに受け取ることができる年金総受給額はどうなるのでしょうか。

年金額100万円の人が繰下げを行った場合における受給開始年齢ごとの総年金受給額をシミュレーションすると次の表のようになります。

(1)繰下げを行わない(65歳から受給する)場合との比較

受給開始年齢を繰り下げた場合、11年10カ月(約12年)を超えて受給することができれば、繰り下げずをせずに65歳から年金を受け取っていた場合よりも生涯の総受給額が多くなります。

つまり、「受給開始年齢+約12年」を超えて年金を受給することができるかどうかが、繰下げを行うことで総受給額が多くなるかの境界線です。

例えば、現在の受給開始年齢の上限である70歳まで繰り下げた場合には、82歳まで年金を受給した場合の総受給額(=約1,704万円)が、65歳から受給した場合の総受給額(=約1,700万円)を上回ります。

もし法改正によって75歳から年金をもらい始めることができるようになれば、87歳まで年金を受給した場合の総受給額(=約2,208万円)が65歳から受給した場合の総受給額(=約2,200万円)を上回り、後は長生きするほど総受給額の差がどんどん広がっていきます。

(2)出来る限り総年金受給額を多くしようとする場合

出来る限り総年金受給額を多くするためにいつから年金をもらい始めるかは少し話が複雑になります。

70歳まで受給開始年齢を繰り下げた場合であれば、前述のとおり、82歳までの総受給額(=約1,704万円)で65歳から受給したときの総受給額(=約1,700万円)を上回ります.。

しかし、82歳到達時点においては、66~69歳から年金をもらい始めたときの総受給額(=約1,734万円~約1,753万円)の方が多くなります。

総受給額が最も多くなるのは68歳からもらい始めたときの約1,753万円です。

そのため、もし82歳までしか年金を受給できなかった場合には、もっと早くから年金をもらい始めていた方がよかった(もらい始めるのが遅すぎた)ことになります。

逆に、88歳まで年金を受給することになった場合には、71歳から年金をもらい始めたときの総受給額(=約2,557万円)が70歳から年金をもらい始めたときの総受給額(=約2,556万円)を上回ります。

さらに長生きして90歳まで年金を受給することになった場合には、72歳から年金をもらい始めたときの総受給額(=約2,858万円)が、71歳から年金をもらい始めたときの総受給額(=約2,558万円)を上回ります。(端数処理の関係で表示上は同額になっています。)

つまり、長生きすればするほど、支給開始年齢をもっと繰り下げておいた方がよかった(もらい始めるのが早すぎた)ことになります。

いつまで生きられるかわからない以上、年金の総受給額が最も多くなることを考えて受給開始年齢を決めることは不可能と言えるでしょう。

受給開始年齢は生活の安定を考慮して決定すべき

「何歳から年金をもらい始めたら最も得をするか(総受給額が多くなるか)」を考えても、いつ死ぬかわからない限り答えは出ません。

制度改正によって70歳を超える年齢まで受給開始年齢の選択肢が増えれば、いつから年金をもらい始めるかを決めることはさらに難しくなります。

国民年金や厚生年金は、老齢化によって十分な収入が得られなくなったときのため(+障害や死亡したときのため)に備えて加入する「保険(年金保険)」です。

本来の趣旨を鑑みれば、総受給額が最も多くなることよりも生活の安定を考慮して受給開始年齢を決めるべきでしょう。

例えば、65歳を超えてもまだ仕事をしている方が、現在は仕事の収入だけで十分に生活ができるけれども将来的には仕事ができなくなる可能性があるのであれば、失業後に著しく収入が減る(生活水準を下げざるを得なくなる)ことを回避するために繰下げをすることが考えられます。

結果として総受給額は少なくなる可能性はありますが、いざ年金をもらい始めれば毎年もらえる金額が大きいことに安心感を得られてメリットを感じられるのではないでしょうか。

一方、将来的に途絶える心配がほとんどない家賃収入や配当収入などがある方であれば、いつから年金を受け取ってもよいと思いますし、65歳に達する前に十分な収入が得られなくなってしまった場合には、支給繰上げを行うことも選択肢となり得ます。

ご自身の経済状況や健康状態などを踏まえていつから年金をもらい始めるかを考えるようにしましょう。