国民年金を滞納すべきではない理由とは?

国による公的年金の所得代替率の計算に不正発覚。「所得代替率の50%以上の維持」は困難。

受け取り始めるときの年金額が、その時点の現役世代の所得に対してどの程度の割合かを示す 「所得代替率」の計算において、厚生労働省が所得代替率が高く算出されるような不適切な計算方法を使っていたことが10月21日の衆院厚労委員会において、明らかになりました。

所得代替率は、例えば、年金支給額が180万円で、その時点における現役世代の平均収入額が300万円であれば、60%(=180万円÷300万円)になります。

計算に用いる平均収入額と年金支給額は、社会保険料や税金などを控除した後のいわゆる手取額を用いる方法と、控除する前の支給額を用いる方法が考えられます。 普通に考えれば、どちらの方法を用いる場合であっても、年金支給額と平均収入額には同じルールを適用するべきであり、先の計算式であれば、180万円と300万円は、どちらも控除後の手取り額を用いるか、またはどちらも控除前の支給額を用いることになります。

しかし、厚生労働省では、計算式の分子にあたる年金支給額には控除前の総支給額を、分母にあたる平均収入額には控除後の手取額をそれぞれ使用することで、所得代替率が高く算出されるようにしていました。

これまで、会社員の夫と専業主婦の2人のモデルケースでは、2013年度の厚生年金の所得代替率は62.6%とされていましたが、年金支給額と平均支給額のどちらにも手取り額を使用した場合の所得代替率は53.9%まで下がり、また、年金支給額と平均収入額のどちらにも支給額を使用した場合の所得代替率は50.9%まで下がるとのことです。

政府は、所得代替率の50%以上の維持を公約に掲げていますが、2013年時点でこの所得代替率だと、近い将来、所得代替率は50%を下回ることになるでしょう。

国民年金は「老後」だけではなく「障害」「死亡」にも備えた保険

会社勤めの方の場合は、給料から厚生年金保険料が天引きされるため、保険料を払わないということは出来ませんが、国民年金に加入している自営業や個人事業主の方だと、不信感が募るあまり、国民年金保険料を納付していない方もいらっしゃるのではないでしょうか。

しかし、老後の年金不安があったとしても、国民年金保険料を未納にしておくことはお勧めできません。

それは、国民年金が、多くの人が「年金」と言われてすぐにイメージする「老後の生活(老齢基礎年金)」のための保険であるだけではなく「障害にかかったとき(障害基礎年金)」と「死亡したとき(遺族基礎年金)」のための保険でもあるからです。

まず、障害基礎年金は、障害等級2級または1級に認定された場合に支給されます。 2級に認定された場合の障害基礎年金の支給額は、年額780,100円(平成28年度)です。これは、国民年金保険料を40年間完納したときに支払われる老齢基礎年金の額と同じ金額です。

また、障害等級1級に認定された場合は、この1.25倍の金額が支給されます。

さらに、一定の要件(18歳未満または20歳未満で一定の障害がある)に該当する子がいるときは、第1~2子は一人につき年額224,500円、第3子以降は1人につき年額74,800円が加算されます。

また、遺族基礎年金は、本人が死亡した場合に、生計が維持されていた「(一定の要件に該当する)子のいる配偶者」または「(一定の要件に該当する)子」に対して支給されます。なお、以前は、「子のいる妻」か「子」が支給対象者とされていて「子のいる夫」は支給対象外でしたが、平成26年4月に法改正が行われて「子のいる配偶者(妻または夫)」が支給対象となりました。

子の要件は、障害基礎年金の加算対象となる子の要件と同じです。

遺族基礎年金の支給額は、年額780,100円(平成28年度)です。また、障害基礎年金と同じく、子の人数によって、第1~2子には1人につき年額224,500円、第3子以降は1人につき年額74,800円が加算されます。

そのため、「子のある配偶者」が受給権者の場合は、少なくとも1人は加算されますので、最低でも年額1,004,600円が支給額になります。

一方、「子」が受給権者の場合、第1子が780,100円として計算され、第2子以降が加算対象となります。(第1子は加算対象にならない。)

入院後や死亡後に保険料を納付しても年金は支給されない

ここで、障害基礎年金や遺族基礎年金の受給に必要な保険料納付期間が重要になります。

老齢基礎年金の受給要件は、最終的に年金受給資格期間が10年(120月)以上あるかどうかで判断されます。

年金受給資格期間は、保険料納付期間と保険料免除期間と合算対象期間の合計です。

保険料の納付期限は2年間(平成30年9月までは5年間)です。

保険料は原則として毎月納付しなければなりませんが、途中で一時的に未納となった期間があっても、その後、納付期限内に納付されれば、老齢基礎年金の年金受給資格期間には影響ありません。

毎月きちんと納付した保険料であっても、過去2年分まとめて納付した保険料であっても、どちらも同じ1か月分としてカウントして老齢基礎年金は支給されます。

しかし、障害基礎年金の場合は、「初めて病院にかかった日(初診日)の前日」において、「初診日の前々月までの保険加入期間の3分の2以上の保険料を納付していること」または「初診日の前々月までの1年間に保険料の未納がないこと」が支給要件となり、遺族基礎年金は、「死亡日の前日」において「死亡日の前々月までの保険加入期間の3分の2以上の保険料を納付していること」または「死亡日の前々月までの1年間に保険料の未納がないこと」が支給要件になります。

それぞれ「前日」に保険料の納付しているかどうかが判断されますから、障害で病院にかかった時点や死亡した時点で本人や遺族が慌てて保険料を納めても、その保険料は障害基礎年金や遺族基礎年金の支給要件を満たすことは出来ないのです。

人工透析も障害認定対象!国民年金はもしものときのための「保険」

障害基礎年金や遺族基礎年金は、支給要件を満たす間はずっと支給されます。現在の国民年金保険料は月額16,260円です。

老後に支給される年金に不安はありますが、障害と死亡に対する補償が行われる、あくまでも「保険」であると考えれば、そこまで割高ではないのではないでしょうか。

また、国は、国民年金保険料の滞納に対する徴収を強化する方針を示しています。

障害を負ったときや死亡したときに年金を受給する権利がないのに、最終的には、強制徴収によってその期間の保険料を支払わなければならなくなったということも考えられます。

「障害になる」というのは意外と身近なことです。

障害基礎年金が支給される障害の種類は様々ですが、少し前に、長谷川豊アナウンサーが、過激なタイトルのブログを公開して炎上し、ニュースでも取り上げられて大きな話題となりました。

その記事の中で槍玉にあげられていた「人工透析患者」ですが、人工透析を行うことになった場合、原則として障害等級2級として認定されることになっていて、症状の程度などによっては1級に認定されることもあります。

障害も死亡も誰にでも起こりうることです。国に対する不信感など感情的な部分は抜きにして、国民年金保険料はきちんと納めましょう。

また、保険料免除期間は、障害基礎年金や遺族基礎年金の支給要件においては保険料納付期間と同等に扱われますので、経済的に保険料の納付が困難な場合は必ず保険料免除申請を行いましょう。