SNSやインターネットで、
「月末日に退職すると最後に2か月分の社会保険料を給与控除される。月末日以外の退職だといつもと同じ1か月分しか給与控除されないためお得だ。」
という書き込みを見かけることがあります。
月末日以外に退職した方が本当に退職者にとってお得なのでしょうか。
社会保険料は前月分を控除するが、退職月は前月分と当月分の2カ月分を控除できる
厚生年金保険法第84条は、保険料本人負担分の給与からの控除について規定しています。
§厚生年金保険法
(保険料の源泉控除)
第84条 事業主は、被保険者に対して通貨をもつて報酬を支払う場合においては、被保険者の負担すべき前月の標準報酬月額に係る保険料(被保険者がその事業所又は船舶に使用されなくなつた場合においては、前月及びその月の標準報酬月額に係る保険料)を報酬から控除することができる。
本条により、社会保険料の本人負担分は、翌月に支払われる給与から控除されます。
毎月25日が支払日の会社であれば、8月25日の支払い給与から7月分の社会保険料を、9月25日の支払い給与から8月分の社会保険料をそれぞれ控除します。
その月が社会保険の加入期間になるかは、月末時点で被保険者であるか(在籍しているか)で判断されます。
8月31日に退職した場合は、8月分までが社会保険の加入期間であり、8月30日に退職した場合は、7月分までが社会保険の加入期間です。
しかし、「末日締め当月25日払い」の会社は、8月25日が最後に支払われる給与です。
8月30日の退職者であれば、8月25日の支払い給与から7月分の社会保険料を控除して終わりですが、8月31日に退職する者は、9月25日の支払い給与がないため、8月分の社会保険料を控除することができません。
そのため、本条かっこ書きにより、退職者については、当月分(退職月分)の社会保険料も控除してよいこととされています。
上記の場合、8月25日の支払い給与から2か月分(7月分と8月分)の社会保険料を控除できます。
月末日以外の退職は当月が社会保険の未加入月になる
社会保険料控除額だけを見ると、2か月分が控除される月末日退職よりも、1か月分しか控除されない月末日以外の退職の方がお得に見えるかもしれません。
しかし、8月分の社会保険料が控除されないということは、8月は社会保険の未加入月になっているということに他なりません。
8月分については、退職後、自分で国民年金や国民健康保険(または健康保険の任意継続加入)等の手続きを行い、保険料を納付する必要があります。
要は、退職月(8月分)の保険料を、
- 在籍中の社会保険として給与控除によって納付するか(月末日の退職)
- 退職後の国民年金や国民健康保険として自分で納付するか(月末日以外の退職)
の違いです。
国民年金や国民健康保険の保険料は、会社で支払っていた社会保険料よりも高くなることの方が多いです。
また、国民年金は厚生年金よりも将来の年金支給額が少ないため、将来の年金額の減少は避けられません。
安易に「給与控除される社会保険料額が少ないからお得(月末日以外に退職するべき)」と考えるべきではないでしょう。
被扶養者になる場合は月末日以外の退職で保険料負担減少のメリットあり。ただし将来の年金支給額は減少する。
例外的に、月末日以外に退職することで一定のメリットがあるケースがあります。
それは、退職日の翌日から配偶者や家族の扶養に入る(国民年金第3号被保険者になる)場合です。
配偶者の被扶養者であれば国民年金と健康保険の保険料負担が、それ以外の家族の被扶養者であれば健康保険の保険料負担がそれぞれ生じません。
8月30日に退職してその翌日から扶養に入れば、8月分から被扶養者として保険料負担が生じなくなるため、8月31日に退職して9月から被扶養者になる場合よりも、保険料負担が1か月分少なくなります。
ただし、先程と同様に、8月分が国民年金の加入となることによる将来の年金支給額の減少はあります。