政府は、平成29年3月28日に公表した「働き方改革実行計画」の中で、副業・兼業を普及促進する方針を示しました。

本業への労務提供や事業運営、会社の信用・評価に支障が生じる場合等以外は合理的な理由なく副業・兼業を制限できないことをルールとして明確化し、企業が副業・兼業者の労働時間や健康をどのように管理すべきかを盛り込んだガイドラインを策定することとしています。

副業・兼業を原則禁止としていたモデル就業規則も、副業・兼業を認める方向で改定される見込みです。

現在は、ほとんどの企業の就業規則に従業員の副業・兼業を禁止する規定が設けられていますが、大手企業を中心に副業・兼業を容認する動きがすでに始まっており、中には副業・兼業を奨励する企業も出始めています。

今後、社会の常識は、副業・兼業の「原則禁止」から「原則容認」に大きく方向転換することになるのではないでしょうか。

割増賃金は全ての会社の労働時間を通算して計算する

副業・兼業の普及が進むことで、注意しなければならない労働基準法の規定があります。

労働基準法第38条第1項では、時間計算の方法について次のように規定しています。

§労働基準法

(時間計算)
第38条 労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。

割増賃金(残業代)は、法定労働時間(原則として1日8時間および週40時間)を超えて行わせた時間外労働に対して法律上の支払い義務が発生します。

割増賃金の計算に当たり、複数の会社で勤務している労働者は、それぞれの会社の労働時間が法定労働時間を超えているかどうかを判断するのではなく、すべての会社の労働時間を通算して法定労働時間を超えているかどうかを判断します。

例えば、会社A(本業)と会社B(副業)で勤務している労働者が、会社Aで6時間勤務した後に同じ日に会社Bで4時間勤務した場合は、1日の労働時間が通算10時間となるため、このうちの2時間は時間外労働にあたることになります。

また、会社Aで1日8時間、週5日(週40時間)の勤務をしている労働者が、土曜日に会社Bで8時間勤務した場合は、週の労働時間が通算48時間となるため、このうちの8時間は時間外労働となります。

つまり、会社Aと会社Bのどちらも1日8時間未満しか勤務させていませんが、どちらかの会社に労働基準法上の割増賃金の支払い義務が生じることになるのです。

原則として「時間的に後に労働契約を締結した会社」が支払い義務を負う

ここで、本業側の会社と副業側の会社のどちらが割増賃金の支払いをしなければならないかが問題となりますが、原則として、時間的に後に労働契約を締結した会社が支払い義務を負うものと解されています。

雇用契約を締結する際に、その労働者が他の会社でも勤務していることを確認したうえで契約を締結するべきというのがその理由です。

つまり、多くの場合は、副業側の会社(会社B)のほうが割増賃金の支払い義務を負うことになります。

もし、本業の会社の所定労働時間が1日8時間の労働者をアルバイトとして雇い入れた場合であれば、副業側の会社は、労働時間の全てを時間外労働として取り扱って割増賃金を支払わなければならず、思わぬ人件費負担増につながりかねないため注意が必要です。

本業の会社に割増賃金支払い義務が発生することも

ただし、割増賃金の支払い義務は、必ずしも後から雇入れた会社や一日のうちで後から勤務させた会社が負うわけではありません。

労働者がこの後他の会社で働くことを知っていながら所定時間を超えて勤務させた場合には、本業側の会社に割増賃金の支払い義務が生じます。

所定労働時間が7時間の会社が労働者に8時間の労働を行わせた場合、所定労働時間を超える1時間については、法定労働時間を超えていないため通常割増賃金の支払い義務は生じません。

しかし、会社が副業・兼業を容認しており、当該労働者がこの後別の会社で勤務することが分かっている場合には、この1時間に割増賃金の支払い義務が発生することになります。

そのため、副業・兼業を解禁する本業側の会社も注意しなければなりません。

実際に割増賃金トラブルが生じた場合には、どちらの会社が割増賃金を支払わなければならないか個別事案ごとに判断が必要となりますが、労働者、本業側の会社、副業側の会社の3者が絡むトラブルとなるため、通常の割増賃金トラブルよりも解決が困難です。

今後、副業・兼業の解禁や副業・兼業者の雇い入れを考えている会社は、思わぬ残業代トラブルに巻き込まれないようしっかりとルール作りを行ってください。