日本の企業の間で、「年功序列制度」から「成果主義」に切り替える動きが広がりを見せています。
これから年功序列制度から成果主義に切り替えることを検討している会社も少なくないのではないでしょうか。
年功序列制度は「能力主義」の賃金制度
年功序列制度は、従来の日本企業で多く採用されてきた、勤続年数や年齢が上がるにつれて賃金や役職も上がっていく賃金制度です。
年功序列制度を構成する代表的な賃金には、勤続年数に応じて支給される「勤続給」や年齢を基準に支給される「年齢給」などがあり、これらは純然な年功序列型の賃金と言えるでしょう。
しかし、実際には、年功序列制度を採用している企業のほとんどでは、職務遂行能力に応じて支給される「職能給」が賃金の中心的役割を果たしています。
職務遂行能力は、勤続年数や年齢に伴って勝手に上がっていくわけではありませんが、 「職務遂行能力は勤続年数(年齢)に応じて高くなる」 「一度身に着いた職務遂行能力は(原則として)低下しない」 という考え方が一般的となっているため、職能給も実質的には年功序列に従った賃金として機能しています。
また、個々の社員の能力を正しく評価して賃金に反映させることが難しいという理由も影響しています。
そのため、「後から入社した人が先に課長に昇進した」というように、同世代の社員間で賃金や役職が前後することや、一部の社員が大抜擢されて昇格するようなことはあっても、社員全体ではほとんど年功序列に従った賃金や役職となっています。
成果主義は結果を出し続けることが求められる賃金制度
成果主義は、海外企業で一般的な、業績や成果に基づいて賃金や昇進などを決める賃金制度です。
成果を賃金に反映させる方法は様々あり、
- 成績評価に基づいて来季の賃金水準や年俸額を決める方法
- 契約件数などの営業成績によって業績給などの出来高手当を支払う方法
- 成果に応じたインセンティブ報酬を賞与として支給する方法
などがあります。
職能給に代表される能力主義の賃金は、業務遂行能力さえあればそれに見合った成果が出ていなくても賃金水準が維持されるのに対し、成果主義の賃金は、業務遂行能力に見合った成果を出し続けなければ賃金水準を維持することが出来ません。
そのため、年や月によって賃金額の変動が大きくなりやすく、また、社員間の賃金格差が生じやすい賃金制度と言えます。
成果主義のデメリット面についてもしっかり検討を
年功序列制度の企業の多くは、社員の高齢化による人件費負担の増大が重要な経営課題となっています。
一方、成果主義は、企業業績と人件費の連動性が高く、企業にとってはコスト管理をしやすいというメリットがあり、年功序列制度からの切り替えの動きが広がっている大きな理由の一つとなっています。
しかし、年功序列制度から成果主義への切り替えを考える際は、むしろ成果主義のデメリットが事業運営に与える影響を考慮しておく必要があります。
成果主義のデメリットには次のようなものが挙げられます。
- 社員が目先の成果ばかりを追い求め、中長期的な成長や成果が見込めなくなる
- 成果や評価に直接結びつかない業務がおろそかになる
- 個人成績を重視して社内の雰囲気が悪化する
- 営業職のように 成果を数値化しやすい部署と事務職のように数値化しにくい部署の間で不公平感が生じる
- 長期間会社に在籍するメリットが小さく、定着率が悪化する
- 技術やノウハウの蓄積や継承が困難となる
いずれも抽象的なものであるため、実際に切り替えてみないとどのような問題が生じるかわからないというのが最大の問題点と言えるでしょう。
年功序列制度から成果主義に切り替える際の留意点
賃金総額を減少させるような賃金制度変更は、社員が被る不利益が許容されうるだけの、より高度な必要性や合理性が要求されます。
年功序列制度から成果主義への変更は、賃金原資の配分をより合理的なものとする「人件費再分配」の手段と考え、「人件費削減」を目的として行うことは出来る限り避けたほうがよいでしょう。
いきなり賃金制度を切り替えると社員の生活や将来設計に支障を及ぼす恐れがあるため、できるだけ負担が少なくなるように、徐々に制度移行させる激変緩和措置を講じるなどの配慮も必要です。
また、最近では、大手企業において年功序列制度を一切廃止した「完全成果主義」を導入するケースも見受けられますが、いきなり完全成果主義に切り替えることはリスクも大きいため、賃金制度の一部を成果主義に切り替えるなど、成果主義をどの程度取り入れるべきかも慎重に判断する必要があります。
成果主義に切り替える理由、期待する効果、懸念される問題などをしっかり整理し、弁護士や社労士などの専門家の意見も聞きながら、労使双方にとって最も良い賃金制度を構築していきましょう。