平成30年1月に厚生労働省が「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を公表しました。

【参考:副業・兼業の促進に関するガイドライン(厚生労働省HP)】

一部の企業では副業・兼業解禁の動きがすでに始まっており、ガイドラインの公表によって「原則禁止」から「原則容認」に方針転換する企業がさらに増加すると考えられます。

一方、労災保険、雇用保険、社会保険などの公的保険制度は、副業・兼業の推進に法整備が追い付いておらず、様々な課題が生じています。

副業・兼業を行う労働者の公的保険制度について留意すべき点を解説したいと思います。

労災保険の留意点

保険給付は1社分の賃金に基づいた金額しか受けられない

労働者が、業務中や通勤中に発生した災害(労災事故)に起因して負傷、疾病、障害、死亡した場合には、労災保険から療養費用(治療費や薬剤費)や休業することになった期間の収入補償などの給付が行われます。

休業期間中の収入補償として支払われる「休業(補償)給付」の支給額は、賃金額(原則として直近3カ月の支給実績)から算出されます。

労災保険は、雇用形態に関わらず全ての労働者が対象となります。

そのため、副業・兼業でアルバイトやパートとして勤務している場合には、その際に負ったケガであっても休業(補償)給付の給付は受けられます。

ただし、休業期間中の収入補償として支払われる「休業(補償)給付」の支給額は、労災事故が起きた会社から支払われる賃金のみに基づいて算出されます。

副業・兼業中のケガで本業の仕事も休まなければならなくなったとしても、休業期間中は副業・兼業の会社から支払われている賃金に基づいた休業(補償)給付しか支払われません。

障害を負ったときに支払われる「障害(補償)給付」や、死亡したときに遺族に支払われる「遺族(補償)給付」も同様であり、万が一の時に十分な補償を受けられなくなる可能性があります。

勤務先間の移動途中の事故は移動先の会社の通勤災害になる

「通勤」とは、業務の性質を有するものを除き、次に掲げる移動を合理的な経路及び方法により行うことをいいます。

  1. 住居と就業の場所との間の往復
  2. 就業の場所から他の就業の場所への移動
  3. 住居と就業の場所との間の往復に先行し、又は後続する住居間の移動

ただし、移動の経路を逸脱し、又は移動を中断した場合には、逸脱又は中断の間及びその後の移動は「通勤」とはなりません。

勤務終了後に別の勤務先に移動する途中で発生した通勤災害は、後の会社の通勤災害(出社途中の通勤災害)として取り扱われます。

本業の会社から自宅に帰る途中で生じた事故であれば本業会社の賃金額に基づいた給付が受けられますが、本業の会社から副業の会社に移動している途中で生じた事故だと、副業会社の賃金額に基づいた給付しか受けられないため注意が必要です。

副業・兼業が個人事業主や会社役員の場合は通勤と認められない

個人事業主や会社役員は原則として労災保険に加入しません。

そのため、個人事業主や会社役員として副業・兼業を行う場合には、これらの就業場所への移動は労災保険の給付対象となる通勤とはなりません。

特に留意しなければならないのが就業場所間の移動です。

本業(労働者)の就業場所から副業・兼業(個人事業主や会社役員)の就業場所への移動は、通勤経路の逸脱又は中断として取り扱われることになり、移動途中で起きた事故については労災保険から給付が受けられない可能性があります。

雇用保険の留意点

雇用保険は主たる賃金を得ている会社でのみ加入する

雇用保険は、週の所定労働時間が20時間以上の労働者が加入対象になります。

勤務する各会社の所定労働時間が短い場合には、雇用保険に加入することができない場合があります。

一方、複数の会社で加入要件を満たした場合には、生計を維持するために必要な主たる賃金を受ける雇用関係にある会社(本業会社)でのみ加入します。

雇用保険の給付額は、雇用保険に加入している会社から支払われている賃金額に基づいて算出されるため、労災保険の場合と同様に十分な給付が受けられない可能性があります。

本業会社を退職しても失業と認められない

雇用保険の代表的な給付は、失業期間中(求職期間中)に支払われるいわゆる「失業手当」(基本手当)です。

しかし、雇用保険に加入している本業の会社を退職したとしても、副業・兼業の会社で勤務をしている場合には失業期間として認められず、失業手当の支給を受けられない場合があります。

社会保険の留意点

会社の社会保険に加入できなかった場合は休業期間中の収入補填がない

社会保険(健康保険・厚生年金)は、原則として所定労働時間が週30時間以上の労働者が加入対象となり、一定の要件を満たす場合には、所定労働時間が週20時間以上のパート労働者も加入対象となります。

健康保険では、病気やケガの療養のために休業している期間に支払われる「傷病手当金」や、産前産後休業期間中に支払われる「出産手当金」があります。

いずれかの会社で加入要件を満たした場合には、その会社の社会保険に加入できますが、やはり給付額はその会社から支払われる賃金額に基づいたものになるため、十分な給付が受けられない可能性があります。

さらに、いずれの会社でも加入要件を満たさない場合には、会社の社会保険には加入できないため、市区町村の国民年金と国民健康保険に加入することになります。

国民健康保険には傷病手当金や出産手当金のような休業期間中の収入補填を行う給付がないため、休業してしまうとその期間中の収入が途絶えてしまう可能性があります。

2社以上で加入要件を満たしたときは「二以上事業所勤務届」が必要

代表取締役などの会社役員は、原則として社会保険の加入対象となります。

そのため、本業で正社員として勤務して副業・兼業で会社役員を務める場合などは2社で社会保険の加入要件を満たすことがあります。

この場合には、2社からそれぞれ支払われる報酬額を合算して保険料の計算基礎となる標準報酬月額を決定し、報酬額の割合に応じた保険料をそれぞれの会社が納付します。

つまり、雇用保険のようにいずれかを選択して加入するのではなく、加入要件を満たす全ての会社で資格を取得した上でそれを一つに取りまとめる形になります。

この手続きを「二以上事業所勤務届」といい、ある会社の報酬額が変更されることで他の会社の保険料負担額も変わることがあるため、会社の事務負担が増加する可能性があります。