金銭債務の不履行に対して請求できる「遅延損害金」の特徴

遅延損害金は金銭債務不履行に対する損害賠償金

債権者は、債務者の債務不履行によって損害を被ったとき、民法第415条に基づき損害賠償を請求することが出来ます。

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債務不履行による損害賠償のうち、金銭債務の不履行(賃金が支払日までに支払われなかった場合など)によって生じた損害に対する賠償のことを、特に「遅延損害金」といいます。

労働問題の場においても、民事訴訟などによって労働者が会社に対して未払い賃金の支払いやパワハラに対する慰謝料の請求を行う際には、その支払いが履行されるまでの遅延損害金をあわせて請求することが一般的に行われており、遅延損害金について理解しておくことは重要です。

遅延損害金に定められている3つの特徴

遅延損害金は、民法第419条に特則が定められており、金銭債務以外の不履行による損害賠償とは異なる取り扱いがなされています。

§民法

(金銭債務の特則)
第419条 金銭の給付を目的とする債務の不履行については、その損害賠償の額は、法定利率によって定める。ただし、約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率による。

2 前項の損害賠償については、債権者は、損害の証明をすることを要しない。

3 第一項の損害賠償については、債務者は、不可抗力をもって抗弁とすることができない。

遅延損害金の主な特徴は下記の3点です。

(1)遅延損害金の額は実損額にかかわらず法定利率によって計算される

通常、債務不履行による損害賠償の額は、債務不履行によって実際に生じた損害額が原則になります。

実際に生じた損害額とは、治療費や通院交通費など支出を余儀なくされた損害であればその支出額、障害を負って働けなくなったことに対する損害であれば今後得られたであろう収入額(逸失利益)、精神的苦痛に対する慰謝料であれば精神的苦痛を金銭に換算した金額などです。

しかし、遅延損害金の場合は、実際に生じた損害額とは関係なく、法定利率で計算した金額が損害賠償額となります。

そのため、債権者が、法定利率以上の損害が生じたと主張しても、法定利率以上の遅延損害金は請求できませんし、債務者が、法定利率以下の損害しか生じていないと主張しても、法定利率で算出した遅延損害金の支払いは免れません。

ただし、当事者間の取り決めにより、法定利率を超える約定利率が定められている場合は、その約定利率で遅延損害金を計算します。

なお、遅延損害金を計算する際に用いられる法定利率は、損害賠償請求の事案によって適用される利率が異なります。

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(2)債権者は損害の証明をすることを要しない

通常の損害賠償請求では、債権者は、債務の不履行によって実際に被った損害を証明しなければ、損害賠償請求を行うことができません。

しかし、遅延損害金の場合は、債権者は、損害の証明をすることなく債務者に遅延損害金を請求することができます。

これは、遅延損害金の場合、損害の証明をしなくても、債権者には時間の経過による損害が必ず発生しているからです。

例えば、今100万円を貰って銀行に預けておけば、1年後に100万円を貰うよりも利息分だけ多く利益が得られます。

つまり、『1年後に貰う100万円』は『今日貰う100万円』よりも利息分だけ損している(損害がある)ことになります。

遅延損害金の場合、この利息分の損害は必ず発生するのです。 時間の経過によってどれだけの損害が発生しているかは、人や状況によって異なります。

もし、銀行に預けて年利1%の預金利息を得る以上の利益が得られないのであれば、時間の経過による損失は1%と考えられます。

しかし、年利10%で運用する手段を持っている人であれば、10%の損失が発生していると言えますし、銀行に預ける場合であっても、預金利息が年利5%になれば、5%の損失が発生していると言えます。

ただし、遅延損害金の額の計算においては、こういった個々の事情は一切考慮せず、一律法定利率で計算することになります。

(3)債務者は不可抗力をもって抗弁することが出来ない

通常の損害賠償請求の場合、債権者は、債務不履行による損害が発生していたとしても、債務不履行の理由が天災等の不可抗力であり、債務者の故意や過失によるものでない場合(債務者の帰責事由がない場合)は、債務者に対して損害賠償を請求することができません。

しかし、遅延損害金の場合は、債務者は、債務不履行の理由が天災等の不可抗力であっても、それを債権者に対する抗弁とすることができず、絶対的に損害賠償を行う責任を負います。 債務者にとっては厳しい決まりと言えるでしょう。

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