就業規則に定めていない解雇事由での解雇は有効か?

解雇事由は就業規則の絶対的必要記載事項

労働基準法第89条は、就業規則の作成と届け出の義務について定めています。

この条文の中で、「解雇の事由」は必ず定めておかなければならない「絶対的必要記載事項」であると規定されており、就業規則の作成義務がある場合、その就業規則には解雇事由を必ず明記しなければなりません。

§労働基準法

(作成及び届出の義務) 第89条

常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。

(略)

3 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)

(略)

では、就業規則に定められていない解雇事由では労働者を解雇することはできないのでしょうか。

例示列挙説と限定列挙説

就業規則に定められていない解雇事由で労働者を解雇できるかどうかの考え方には、「例示列挙説」と「限定列挙説」があります。

例示列挙説

会社はそもそも解雇権を有しており、就業規則の解雇事由は例示的に記載されているだけで、記載されていない事由であっても会社の解雇権は制限されない。

限定列挙説

就業規則の解雇事由は会社が解雇権を行使する場合を自ら限定して記載したものであり、記載のない解雇事由での解雇はできない。

普通解雇は「例示列挙説」に立つ裁判例が多く、懲戒解雇は「限定列挙説」で一致

普通解雇は、就業規則に定められていない解雇事由であっても解雇できる例示列挙説に立つ裁判例が多くみられます。

しかし、普通解雇であっても限定列挙説に立っていると考えられる裁判例も見られるため、事案に応じた個別の判断が必要と考えられます。

一方、懲戒解雇の場合は、就業規則に定められていない解雇事由での解雇はできない限定列挙説として解することで一致しています。

普通解雇と懲戒解雇の違いは?

普通解雇の場合と懲戒解雇の場合の違いは何なのでしょうか。

解雇は「会社からの労働契約の解除の申し出」です。

普通解雇は、解雇の理由がどうであれ、単なる「会社からの労働契約の解除の申し出」としての効力しか持っていません。

しかし、懲戒解雇は、解雇として会社からの労働契約の解除の申し出の効力を有するとともに、「懲戒処分」として労働者に制裁を科す意味を持っています。

そのため、ここで「罪刑法定主義」という考え方が必要になります。

罪刑法定主義は、 「どのような行為が犯罪とされ,どのような刑罰が科せられるかは,犯罪と刑罰の具体的内容があらかじめ規定されていなければならない」 という刑法の原則の一つです。

懲戒処分も会社内における制裁(刑罰)にあたりますので、罪刑法定主義の原則に準じる必要があります。

(関連記事:会社が従業員に対して懲戒処分を行うときに留意すべき点は?

したがって、懲戒解雇の場合は「こういう理由の場合は懲戒解雇という制裁を科しますよ」ということが、あらかじめ就業規則などで規定されていなければならず、すなわち限定列挙説と解されることになります。

包括的記載によりどちらの説で解するべきかの問題は実務上ほとんど生じない

ただし、実務において就業規則に解雇事由を記載する場合は、いくつかの具体的な解雇事由を列挙して、最後に「その他前各号に準ずる事由がある場合」などの包括的記載がされることが一般的です。

この包括的記載の効力は否定されていません。

したがって、具体的に列挙した解雇事由以外の理由で解雇しようとする場合であっても、包括的記載を根拠に解雇することは可能です。(その解雇事由が、列挙している事由に準ずるといえる程度のものであるかどうかの問題は当然あります。)

そのため、実務上では、就業規則に定められている解雇事由を例示列挙と限定列挙のどちらで解するべきかはあまり問題とはなりません。