職場復帰を求める場合と求めない場合で変わる不当解雇の金銭的解決の方法

会社から不当解雇された労働者が、会社に対して金銭の支払いを求めてその解決を図ろうとするケースは多くあります。

では、不当解雇された労働者は、会社に対して、いかなる根拠でどのような金銭の支払いを求めることができるのでしょうか。

ここでは、「職場復帰を求めた上で金銭解決を図る場合」と「職場復帰は求めずに金銭解決を図る場合」に分けて検討してみたいと思います。

客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない解雇は無効

まずは、解雇の効力について規定している労働契約法第16条を確認してみましょう。

§労働契約法

(解雇)
第16条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

この条文で、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない解雇は無効であると規定しています。

無効」とは、最初から解雇の効力はなかったということです。

解雇は会社からの雇用契約終了の意思表示です。

解雇が無効である場合、会社からの解雇通知が雇用契約終了の意思表示としての効力が最初からない、つまり「何も通知していないのと同じ」ということになり、雇用契約は解雇通知後も有効に継続していることになります。

職場復帰を求める場合は「賃金の支払い(債務の履行)」を請求する

職場復帰を求める場合、労働契約法第16条に基づいて、解雇は無効であり、雇用契約は今も有効に継続していて労働契約上の労働者としての地位があることの確認を請求する、いわゆる地位確認請求を行います。

そのうえで、雇用契約が有効に継続しているにもかかわらず、労働契約に基づいて支払われていない解雇日以降の賃金の支払い(=債務の履行)を請求することになります。

しかし、解雇日以降の賃金の支払いを求めるにあたって一つ問題があります。

賃金は労働の対価です。会社による不当な解雇が原因とはいえ、労働者のほうも解雇日以降会社に対して労働力の提供を行っていないのですから、「ノーワーク・ノーペイ」の原則に従えば、労働者は、会社に対して賃金の支払いを請求することはできません。

そこで、民法第536条第2項の規定を持ち出してきます。

§民法

(債務者の危険負担等)
第536条 第2項 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。この場合において、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。

この条文を今回のケースに当てはめてみると、 「債権者(=労働力の提供を受ける権利がある会社)の責に帰すべき事由(=無効な解雇通知)によって債務(=労働力の提供)を履行することが出来なくなったときは、債務者(=労働者)は、反対給付(=労働力の提供の対価。つまり賃金。)を受ける権利を失わない」 となります。

つまり、 「勤務はしていないけど、その原因は会社にあるんだから賃金を請求する権利は失ってませんよ」 という根拠に基づき、会社に対して賃金の請求を行うことになります。

職場復帰を求めない場合は民法第709条に基づく損害賠償請求を行う

一方、職場復帰を求めない場合は、労働契約法第16条に基づく解雇の無効は主張しないことになります。

その結果、解雇通知によって(少なくとも表面上は)労働契約は終了していることになりますから、解雇日以降の賃金を請求することができません。

そのため、職場復帰を求めない場合には、民法第709条に基づいて、不当解雇によって被った損害に対する損害賠償請求を行って解決を図っていくことになります。

§民法

(不法行為による損害賠償)
第709条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

賃金金支払い請求と損害賠償請求の違いは?

職場復帰を求める場合と求めない場合で金銭的解決を図る方法を整理すると次のようになります。

  • 職場復帰を求める場合 ・・・賃金支払いという「債務の履行」を請求する
  • 職場復帰を求めない場合・・・不当解雇に対する「損害賠償」を請求する

賃金支払いの請求の場合は、雇用契約に基づく債務の履行を請求しているだけですので、その請求根拠や請求金額(=賃金額)は明確であり、比較的容易に請求額を算出することが可能です。

解雇が無効であると認められれば、当然に支払われるはずのお金といえます。

一方、損害賠償請求の場合は、労働者は、不当解雇によって発生している損害の存在や、その損害額の証明から行わなければなりません。

また、不当な解雇であっても、違法性が高くなければ損害賠償が認められないこともあります。

不当解雇に対する損害賠償としてまず思いつくのは精神的苦痛に対する慰謝料だと思いますが、労働者が受けた精神的苦痛の程度を金銭に換算し、それを証明することは容易ではありません。

解雇がなければその後得られたはずの賃金相当額(逸失利益)を損害として請求することも考えられますが、この場合も、いつまで労働契約が継続していたのかということなどを証明する必要があると考えられます。

この場合も、職場復帰を求める場合は「賃金の支払いそのもの」を請求しているのに対し、職場復帰を求めない場合は、あくまで「賃金相当額の損害賠償」を請求することになります。

職場復帰を求めながら金銭解決を図っていくのが原則

以上から、不当解雇に対して金銭解決を図ろうとする場合は、職場復帰を求めながら金銭解決を図っていくことが原則になります。(あくまで法律の理屈に基づいた原則であり、事案ごとの事情に合わせた個別の対応が必要です。)

なお、職場復帰を求めている場合にも、賃金の支払いとあわせて慰謝料等の損害賠償を請求することは可能です。

この場合は、職場復帰を求めない場合と同様に、精神的苦痛等の損害の存在やその損害額の証明を行う必要があります。

また、賃金支払いと損害賠償のいずれを請求する場合であっても、その支払いが履行がされるまでの遅延損害金をあわせて請求することができます。