勤務間インターバル制度を導入すれば長時間労働の問題は解決する?

エステティックTBC(TBCグループ)は12月8日、従業員の長時間労働を抑制するために、労働組合「エステ・ユニオン」との間で、全従業員に対して終業から次の始業までに連続9時間の休息を義務化する「勤務間インターバル制度」を盛り込んだ労働協約を締結しました。

10月には、ユニ・チャームが、平成29年1月から勤務間インターバル制度を導入することを発表しており、まだ法制化はされていないにもかかわらず、長時間労働対策として勤務間インターバル制度を導入する動きが大手企業を中心に相次いでいます。

36協定を遵守するだけでも休息時間の確保は可能

現在の労働基準法では、36協定(時間外・休日労働に関する協定届)によって、一定期間に行わせることが出来る時間外労働の長さを制限することにより長時間労働の抑制を図っていますが、その中には、「1日に行わせることが出来る時間外労働の長さ」も必ず定めなければなりません。

そのため、所定労働時間が9時から18時まで(休憩1時間)の会社であれば、1日に行わせることが出来る時間外労働の時間を6時間として36協定を締結すれば、従業員に24時以降の残業を命じることは出来ません。

つまり、適切な36協定を締結してそれを遵守するのであれば、わざわざ勤務間インターバル制度を導入しなくても、翌日の始業時刻までに9時間の休息時間は確保できることになります。

勤務間インターバル制度を導入する意義は?

それでも勤務間インターバル制度を導入することには、次のような意義があると考えられます。

(1)会社に金銭負担が課されて従業員を早く帰らせる動機付けとなる

勤務間インターバル制度を導入した場合、会社は、残業によって従業員の終業が遅くなり、所定の休息時間を確保しようとすると翌日の始業時刻を超えてしまう場合には、始業時刻から実際に勤務を開始する時刻までの賃金を支払わなければなりません。

会社としては、残業をさせたからと言って長い時間働かせることが出来るわけではなくなり、残業代に加えて、勤務を行っていない時間に対しても賃金を支払う義務を負うことになりますので、休息時間を確保できるように従業員に強く帰宅を命じる動機付けとなります。

(2)休息時間の確保によって健康障害のリスクが減少する

36協定では、一定期間に行わせることが出来る時間外労働の長さを制限することで長時間労働の抑制を図りますが、定め方によっては、その日の終業時刻から翌日の始業時刻まで残業を行わせて、そのまま翌日の通常勤務を続けて行わせることも可能です。

つまり、36協定を遵守していても、健康管理上は問題がある働き方となり得ます。

一方、勤務間インターバル制度を導入している場合は、勤務ごとに所定の休息時間が必ず確保されなければならないため、無理な働き方は自ずと制限され、健康障害のリスクの低減が期待できます。

(3)従業員にも労働時間を意識させて無駄な残業を削減する

勤務間インターバル制度の導入は、会社に対して、従業員に所定の休息時間を取らせなければならないという義務を課す一方、従業員にも所定の休息時間を取らなければならないということを意識させ、無駄な残業を削減する効果が期待できます。

勤務間インターバル制度の導入は長時間労働対策のきっかけにすぎない

注目を集めている勤務間インターバル制度ですが、導入すれば直ちに長時間労働の問題が解決する魔法のような制度ではありません。

上司が、始業時刻に出勤してきた部下が所定の休息時間を確保できていないことを知っているにもかかわらず、見て見ぬふりをしてそのまま勤務させていたのでは意味はありませんし、従業員に到底終わらない量の業務を与えているにもかかわらず、休息時間の確保を理由に退社を命じたとしても、持ち帰り残業などの問題が新たに発生するにすぎません。

これまで帰宅するように言っても帰らなかった従業員が、勤務間インターバル制度を導入した途端に直ちに命令に従って帰宅するようになるわけでもないでしょう。

長時間労働問題の背景には、経営者、上司、従業員に「仕事が忙しいから仕方がない」という意識があったはずであり、それを払しょくしない限りは、どのような制度を導入しても問題は解決しません。

結局のところ、本当に長時間労働の問題を解決できるかどうかは、勤務間インターバル制度の導入をきっかけに、会社のトップがどれだけ本気で長時間労働対策に取り組もうとしているかにかかっています。

逆に言えば、会社のトップに本気で長時間労働対策を講じる姿勢があるのであれば、36協定だけであってもその対策は十分可能です。

勤務間インターバル制度を正しく理解し、長時間労働対策に上手く活用していただければと思います。

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