健保「傷病手当金」と労災「休業(補償)給付」の比較(3)~支給期間の違い~

健康保険の「傷病手当金」と労災保険の「休業(補償)給付」の比較を行うシリーズの第3回です。(シリーズ関連記事はこちら

今回のテーマは、傷病手当金と休業(補償)給付の支給期間の違いについてです。

傷病手当金も休業(補償)給付も「治ゆ」するまで支給される

まず、傷病手当金と休業(補償)給付は、どちらも、病気やケガの療養のため仕事をすることができず、会社から賃金が支払われない場合に、その休業期間中に支給されます。

療養とは、病気やケガを治したり回復を図ったりすることであり、「治ゆ」したときは、それ以降は休業して通院や入院をしていたとしてもこれらの保険給付は支給されません。

「治ゆ」とは、これ以上積極的に治療をしても症状が変わらない(症状が固定した)状態になることをいい、必ずしも病気やケガをする前と同じ状態にまで回復しているとは限りません。

例えば、交通事故などで首を痛めてしまって病院で治療を受けた場合、最終的に痛みが残ってしまったとしても、これ以上治療をしても良くならない状態になったのであれば、そこで治ゆ(症状固定)したものとして取り扱われ、以降は仕事が出来ない状態であってもこれらの保険給付の支給は行われなくなります。

なお、治ゆ後の症状が一定の障害に該当した場合は、障害年金や障害(補償)給付などが支給されます。

傷病手当金の支給期間は最長で1年6ヶ月、休業(補償)給付は支給期間制限なし

傷病手当金は支給期間の上限が設けられており、最長で1年6ヶ月です。

これ以降は、療養のための休業を継続している場合であっても傷病手当金の支給は行われません。

1年6ヶ月の起算日は、最初に傷病手当金の支給を受けた日です。

「支給を受けた日」とは、傷病手当金が支払われた(振り込まれた)日ではなく、傷病手当金の支給対象となった日を指します。

3日間の待期期間を完了し、4日目から傷病手当金の支給を受けたのであれば、その日が起算日になります。

一方、休業(補償)給付は支給期間の上限は設けられておらず、療養のための休業期間中である限りずっと保険給付が行われます。

ただし、休業開始から1年6ヶ月を経過しても病気やケガが治らない場合であって、その病気やケガの程度が一定の基準に該当していて、その状態がなおも継続している場合は、休業(補償)給付から「傷病(補償)年金」の支給に切り替えられることがあります。

傷病(補償)年金は、休業(補償)給付と同じく、療養のための休業期間中の収入補償として支払われる保険給付です。

休業(補償)給付が、休業した1日ごとに請求を行い、その請求に基づいて日単位で支給されるのに対し、傷病(補償)年金は、その名のとおり「年金」として年を単位に支給されます。

休業(補償)給付から傷病(補償)年金への切替は、国(労働基準監督署長)の職権によって行われます。

本人が「傷病(補償)年金でもらいたい」と思ったとしても、請求は出来ません。

保険給付中に退職した場合の取り扱い

傷病手当金を受給している期間中に退職した場合、

  1. 退職日までに被保険者期間が継続して1年以上ある
  2. 退職日当日において傷病手当金の支給を受けている(又は受けられる状態である)
  3. 引き続き同じ病気やケガで労務不能である

のいずれにも該当する場合は、最長1年6ヶ月までは引き続き傷病手当金の支給を受けることが出来ます。

ただし、退職した後の療養期間の途中で症状が回復し、労務可能となった場合は、その後再度症状が悪化して働けなくなったとしても、以降の傷病手当金の支給は行われなくなります。

一方、休業(補償)給付は、退職後であっても、療養のため仕事が出来ない状態であれば支給されます。

休業(補償)給付の場合、傷病手当金と違って退職日時点から引き続き給付を受けている必要はありません。

例えば、勤務中のケガで8月末まで休業(補償)給付を受けていたが、一度治ゆしたため、その後1ヶ月間普段通りに仕事をして9月末に退職した従業員が、退職後、そのケガの症状が悪化して再度療養が必要となり、仕事が出来なくなったときには、休業(補償)給付が支給されます。

(関連記事:健保「傷病手当金」と労災「休業(補償)給付」の比較(1)~(4)