労災保険は、業務上の事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に対して迅速かつ公正な保護をするため、必要な保険給付を行います。
労災保険の保険料は、全額、会社が負担していて、正社員、契約社員、パート、アルバイト等の雇用形態に関わらず、全ての労働者が給付対象となります。
これは、副業・兼業で勤務している場合であっても例外ではありません。
しかし、労災保険の制度上、副業・兼業の場合には十分な給付を受けられない可能性があるため注意が必要です。
療養(補償)給付は副業・兼業の場合でも全額給付が受けられる
労災保険から行われる給付で代表的なものには、「療養(補償)給付」「休業(補償)給付」「障害(補償)給付」「遺族(補償)給付」などがあります。
療養(補償)給付は、治療費、入院費、薬剤費など、ケガや病気の治療に要する費用の給付です。 療養(補償)給付は、原則として、病院や薬局で無料で治療等を受けられる「現物支給」によって支給されます。
医療機関の窓口で支払いが生じた場合でも、後からその費用が支給され、被災者の費用負担は生じません。
副業・兼業の場合であっても、療養費用全額の給付が受けられるため、療養(補償)給付については、特に問題は生じません。
休業(補償)給付は1社分の賃金に基づいた給付しか受けられない
副業・兼業の場合に問題となるのが、「療養(補償)給付」以外の、「休業(補償)給付」「障害(補償)給付」「遺族(補償)給付」の給付です。
療養(補償)給付は、被災者の賃金額に関わらず療養費用全額の給付が受けられますが、これらの給付は、被災者の賃金額から算出した「給付基礎日額」によって給付額が決まります。
副業・兼業では2社以上の会社から賃金を受けることになりますが、給付基礎日額は、業務災害や通勤災害が発生した会社の賃金額のみに基づいて計算されます。
例えば、本業のA社から月30万円、副業のB社から月10万円を支払われている労働者が、B社の勤務中にケガをして休業することになった場合、両方の会社から賃金を受けられなくなりますが、休業期間中の収入補償として支給される休業(補償)給付は、B社から支払われる10万円に基づいた金額しか支給されません。
そのため、休業期間中の生活に支障が出る可能性があります。 障害が残った場合や、死亡した場合も同様であり、被災者や遺族が十分な補償を受けられない可能性があります。
会社間の移動途中の災害は後の会社の通勤災害として取り扱われる
A社の勤務終了後にB社に移動する途中で災害に遭ったときは、出社途中の通勤災害、すなわち、B社の通勤災害として取り扱われます。
一般的には、先に勤務しているA社が本業、後で勤務しているB社が副業になるケースが多いのではないでしょうか。
本業の会社から自宅に帰る途中の通勤災害は、本業の会社から支払われる賃金に基づく給付となり、本業の会社から副業の会社に移動する途中の通勤災害は、副業の会社から支払われる賃金に基づいた給付となります。