高度プロフェッショナル制度に関する「4つの誤解」

平成30年5月25日に、働き方改革法案が衆議院厚生労働委員会で可決されました。

年収1075万円以上の高度専門職を労働時間規制の対象から外す「高度プロフェッショナル制度」(高プロ制度)の導入に関して、野党の一部が最後まで法案からの削除を求めていましたが、与党が採決に踏み切りました。

29日にも衆院を通過する見通しで、6月20日までの通常国会会期内に成立する公算はかなり高まっています。

高プロ制度は、その名称からくるイメージや、「脱時間給」「成果に応じて賃金を決める」等の謳い文句から、制度の仕組みや効果について様々な誤解が生じています。 特に多くみられる誤解を4つ紹介します。

(1)高プロ対象者に裁量権を与える義務はない

高プロ対象となる業務は、厚生労働省令で定められることになっており、次のような業務が予定されています。

  • 金融商品の開発業務
  • 金融商品のディーリング業務
  • 企業・市場等の高度な分析にあたる、アナリスト業務
  • 事業や業務の企画運営にあたる、コンサルタント業務
  • 研究開発業務

これらは、比較的裁量権があることが多い業務であり、また、年収1075万円以上を得る労働者であれば、相応のポジションに就いて一定の裁量権を与えられている可能性があります。

ただ、法律上、会社は、高プロ対象者に裁量権を与える義務を課せられていません。

高プロ制度の対象となったとしても、会社から始業や終業の時間を指示されれば、原則としてそれに従って勤務する義務があります。

(2)成果と関連付けた手当を支払う必要はない

高プロ制度は、「脱時間給」「成果に応じて賃金を決める」と謳われていますが、営業成績や売上実績等の成果に基づいて増減する成果給を支払う義務はなく、固定額の賃金を支払うだけであっても法律上問題ありません。

そのため、必ずしも成果によって賃金額が変動するわけではなく、会社によっては、どんなに成果を上げても一定の賃金しか支払われない制度になります。

極端な話、賃金全額が時間給であり、全く「脱時間給」となっていなかったとしても、年収1075万円以上が見込まれる等の要件を満たすのであれば、高プロ制度の適用を受けて労働時間規制の対象外となり得ます。

(3)労働時間管理を行わなくてよいわけではない

高プロ制度は、労働基準法の労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定が適用されなくなるため、「使用者が労働時間を把握・管理する義務がなくなる」と解説されていることがありますが、使用者による労働時間の把握・管理が不要になるわけではありません。

高プロ制度が規定される労基法第41条の2(新設)の第3項は、原則として「事業場内にいた時間」と「事業場外において労働した時間」の合計を「健康管理時間」と定義し、厚生労働省令で定める方法によって健康管理時間を把握する措置を講じることを使用者に義務付けています。

そもそも、高プロ制度導入によって適用されなくなる労働時間規定の範囲に、「過重労働による健康障害の防止の義務」は含まれません。

高プロ制度に限った話ではありませんが、労働時間の把握・管理は、賃金計算(残業代計算)のためのみではなく、過重労働による健康障害防止のために必要であることに留意が必要です。

(4)使用者が過労死の責任を免れられるわけではない

高プロ制度の対象者は、労基法による労働時間の規制が行われないため、使用者が、いわゆる「過労死ライン」を超える長時間労働を行わせたとしても労基法違反になりません。

ただ、過労死の労災認定の判断には、労基法違反にならない長時間労働であるかどうかは関係ありません。

労災認定は、「業務(過重労働)に起因して健康障害(過労死)が生じたことの確認」にすぎないためです。

「労基法違反ではない長時間労働は業務ではない」とは当然なりません。

そのため、高プロ制度の対象者であっても、長時間労働による健康障害(過労死)と認められれば、労災認定が行われますし、労働者本人や遺族による損害賠償請求の対象となります。

高プロ制度は「過労死合法化」や「定額働かせ放題」と言われていますが、労基法による規制がなくなるだけであり、過労死として労災認定されなくなったりいくら働かせても責任が問われなくなったりする制度ではありません。

高プロ制度は「成果による評価」を促進する制度とは言えない

高プロ制度について、安倍首相は「高い付加価値を生み出す経済を追求しなければならない。時間ではなく、成果で評価する働き方を選択できる制度は待ったなしだ。」と述べています。

ただ、高プロ制度は、ただ単に一定要件に該当する労働者を労働時間規制の対象から外すだけの制度となっており、成果で評価する働き方を促進する制度や仕組みになっているとは言い難いでしょう。

高プロ制度は、導入の仕方を誤るとあっという間に「ブラック企業」と呼ばれかねない制度です。

導入を検討する際は、制度の「趣旨」をしっかりと検討しておく必要があるでしょう。