雇用保険の「育児休業給付金」と健康保険法の「傷病手当金」は併給が可能

育児休業期間中は、雇用保険から「育児休業給付金」が、業務外のケガや病気で一定期間以上療養をした場合は、健康保険から「傷病手当金」が、それぞれ支給されます。

育児休業期間中にケガや病気になった場合には、育児休業給付金と傷病手当金の支給要件を同時に満たす可能性があります。

その場合、これらは併給調整をされることなく、それぞれ本来の支給額の全額が支給されます。

「療養のために仕事を休んでいること」が傷病手当金の支給要件とはされていない

そもそも、育児休業期間中は元々会社を休んでいるのに、なぜ傷病手当金の支給を受けられるのでしょうか。

健康保険法第99条第1項は、傷病手当金の支給について規定しています。

§健康保険法

(傷病手当金)
第99条 被保険者(任意継続被保険者を除く。第102条第1項において同じ。)が療養のため労務に服することができないときは、その労務に服することができなくなった日から起算して3日を経過した日から労務に服することができない期間、傷病手当金を支給する。

本条について、全国健康保険協会(協会けんぽ)のホームページのQ&Aでは、下記の全ての要件を満たす場合に傷病手当金を受給できるとしています。(https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g6/cat620/r307/#q1

  1. 業務外の病気やケガで療養中であること
  2. 療養のため労務不能であること
  3. 4日以上仕事を休んでいること
  4. 給与の支払いがないこと

ポイントは、「療養のため(労務不能であるため)仕事を休んでいること」が要件とはされていないことです。

育児休業期間中であっても、療養のため労務不能な状態(仕事を休む必要がある状態)であれば、要件2を満たします。

また、療養のためではなく育児のため仕事を休んでいる(病気休暇ではなく育児休業によって休んでいる)としても、要件3を満たします。

そのため、育児休業期間中であっても、ケガや病気によって療養が必要な状態になれば、傷病手当金の支給対象となり得ます。

育児休業給付金と傷病手当金の併給調整規定はない

傷病手当金の支給要件を満たしても、併給調整に関する定めがされていればそのルールに従うことになります。

しかし、育児休業給付金と傷病手当金の併給については、調整規定が設けられていません。

そのため、育児休業給付金の受給期間中に傷病手当金の受給要件を満たした場合は、両方が全額受給されます。

出産手当金と傷病手当金は併給調整がある

なお、産前産後休業期間中は、健康保険から出産手当金が支給されます。

育児休業期間中と同様に、出産手当金と傷病手当金も両方の支給要件を同時に満たす可能性がありますが、こちらは併給調整の規定が定められています。

§健康保険法

(出産手当金と傷病手当金との調整)
第103条 出産手当金を支給する場合(第108条第3項又は第4項に該当するときを除く。)においては、その期間、傷病手当金は、支給しない。ただし、その受けることができる出産手当金の額(同条第2項ただし書の場合においては、同項ただし書に規定する報酬の額と同項ただし書の規定により算定される出産手当金の額との合算額)が、第99条第2項の規定により算定される額より少ないときは、その差額を支給する。

2 出産手当金を支給すべき場合において傷病手当金が支払われたときは、その支払われた傷病手当金(前項ただし書の規定により支払われたものを除く。)は、出産手当金の内払とみなす。

本条により、出産手当金と傷病手当金の両方の支給要件を満たした場合は、出産手当金が全額支給され、傷病手当金の支給は行われません。

ただし、出産手当金の額が出産手当金の額を下回る場合は、その差額分の傷病手当金が支給されます。

つまり、出産手当金と傷病手当金のどちらか高い方が支給額となります。