平成30年1月、厚生労働省は「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を公表しました。

副業・兼業を原則禁止としていたモデル就業規則についても見直しが行われています。労働者の順守事項として設けられていた「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと。」という規定は削除され、第14章第67条として副業・兼業に関する規定が設けられています。

ガイドラインの内容を分かりやすく示したパンフレットとQ&Aも併せて公開されています。

副業・兼業は原則容認、禁止・一律許可制は見直しの検討を求める

企業の対応として「裁判例を踏まえれば、原則、副業・兼業を認める方向とすることが適当である」とし、副業・兼業を禁止または一律許可制にしている企業には「副業・兼業が自社の業務に支障をもたらすものかどうかを精査し、そのような事情がない限りは、労働者の希望に応じて、副業・兼業を認める方向で検討すること」を求めています。

ただし、副業・兼業を無条件に認めることまで求められているわけではなく、副業・兼業に関するルールを定めて業務内容や就業時間等について必要な範囲で制限することは可能です。

労働者に対しては、「まず、自身が勤めている企業の副業・ 兼業に関するルール(労働契約、就業規則等)を確認し、そのルールに照らして、業務内容や就業時間等が適切な副業・兼業を選択する必要がある」として、企業が定めるルールの順守を求めています。

副業・兼業の内容等を申請・届出させることは望ましい

原則容認とは言え、副業・兼業の内容等を報告させるために申請・届出を行わせることは、

  • 労務提供上の支障や企業秘密の漏洩等がないか、また、長時間労働を招くものとなっていないか確認する観点から、副業・兼業の内容等を労働者に申請・届出させることも考えられる
  • 労働時間や健康の状態を把握するためにも、副業・兼業の内容等を労働者に申請・届出させることが望ましい

としており、労働者がどのような副業・兼業をしているかについて全く関与しない制度は好ましくないといえます。

労働者の副業・兼業の内容の確認にあたっては、必要以上の情報を労働者に求めることがないよう留意が必要です。

労働時間の通算ルールと就業時間の把握

副業・兼業によって複数の企業で勤務した場合、労働時間は通算して労働基準法等が適用されることになることから、企業に対して、労働者からの自己申告などによって副業・兼業先での労働時間を把握することを求めています。

労働者が、個人事業主や委託契約・請負契約等によって副業・兼業を行っている場合には、労働時間の通算の問題は生じませんが、過労等により業務に支障を来さないようにする観点から「自己申告により就業時間を把握すること等を通じて、就業時間が長時間にならないよう配慮することが望ましい」としています。

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労働者自身による健康状態管理の必要性を明記

使用者は、労働者が副業・兼業をしているかにかかわらず、労働安全衛生法第 66 条等に基づき、健康診断等を実施しなければなりません。(所定労働時間が通常の労働者の3/4未満である等、一定の要件に該当する者を除く。)

労働者に対しては、

  • 副業・兼業による過労によって健康を害したり、業務に支障を来したりすることがないよう、労働者(管理監督者である労働者も含む)が自ら、本業及び副業・兼業の業務量や進捗状況、それらに費やす時間や健康状態を管理する必要がある
  • 使用者が提供する健康相談等の機会の活用や、勤務時間や健康診断の結果等の管理が容易になるようなツールを用いることが望ましい

とし、副業・兼業によって生じる健康障害の防止について一定の自己責任があることに言及しています。

企業の安全配慮義務は今後留意が必要

労働者の副業・兼業先での働き方に関する企業の安全配慮義務について、「現時点では明確な司法判断は示されていないが、使用者は、労働契約法第5条に、安全配慮義務(労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をすること)が規定されていることに留意が必要である」としています。

ガイドラインに詳細は記載されていませんが、過重労働によって生じる健康被害(過労死、うつ病など)に対する安全配慮義務を意識したものと考えられます。

副業・兼業者が過労死したとしても、それぞれの企業における勤務時間が短い場合にはその責任の所在が不明瞭になります。

この時、企業の安全配慮義務の範囲に「副業・兼業先の働き方」が含まれるのかが問題となります。含まれるのであれば、企業は、副業・兼業先の勤務実態まで考慮した安全配慮措置を講じなければ責任を免れません。

現状、副業・兼業者の過重労働に対して明確な司法判断が下された裁判事例がありませんが、副業・兼業の容認によって副業・兼業者の過労死等に関する裁判は今後増加するものと思われ、どのような司法判断が下されるかには注意が必要です。

現行制度(労災保険・雇用保険・社会保険)の取扱い

労災保険

労災保険はそれぞれの企業ごとに加入します。

業務災害や通勤災害によって休業することになった場合、災害の発生した企業から支払われている賃金のみに基づいて給付額が計算されるため、休業期間中の収入が大幅に低下する可能性があることに注意が必要です。

例えば、本業のA社で月20万円、副業のB社で月10万円の賃金が支払われている労働者が、B社の勤務中に負傷して1カ月休業することになった場合、休業によってA社の賃金が支払われなくなったとしても、労災保険からはB社から支払われる月10万円に基づいた給付(休業補償給付)しか支払われません。

なお、A社からB社に移動する途中に通勤災害にあった場合はB社の通勤災害として取り扱われます。

雇用保険

複数の企業で加入要件を満たした場合には、主たる賃金を受ける企業においてのみ雇用保険に加入します。

給付額は、雇用保険に加入している企業から支払われている賃金のみによって算出されます。

社会保険(健康保険・厚生年金)

複数の企業で加入要件を満たした場合には、それぞれの企業で社会保険が成立します。

この場合、すべての企業から支払われる報酬を合計してから標準報酬額を決定し、保険料額を算出します。

各企業は、労働者に支払う報酬の額によって 按分した保険料を納付することになります。

モデル就業規則

モデル就業規則には、「第14条 副業・兼業」として新しい章が設けられました。

それぞれの企業において、具体的な申請・届出の方法や副業・兼業として認められる業務や就業時間などを定めておきましょう。

§モデル就業規則

第14章 副業・兼業

(副業・兼業)
第67条 労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。

2 労働者は、前項の業務に従事するにあたっては、事前に、会社に所定の届出を行うものとする。

3 第1項の業務に従事することにより、次の各号のいずれかに該当する場合には、会社は、これを禁止又は制限することができる。

  1. 労務提供上の支障がある場合
  2. 企業秘密が漏洩する場合
  3. 会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合
  4. 競業により、企業の利益を害する場合