この記事は、民法改正(令和4年2月1日)の民法改正前に書かれたものであり、現在においては正しくありません。
遅延損害金を計算するうえで知っておきたい3つの法定利率
金銭債務の不履行があった場合、債権者は、債務者に対して遅延損害金を請求することができます。
(関連記事:金銭債務の不履行に対して請求できる「遅延損害金」の特徴)
遅延損害金の請求額は、実際に発生した損害額にかかわらず、法定利率で計算することになっていますが、計算に用いられる法定利率は事案によって異なります。
ここでは、労使紛争において遅延損害金の計算に使用されることが多い、
- 民法上の法定利率
- 商法上の法定利率(商事法定利率)
- 退職後の未払い賃金に適用される利率
の3つの利率について説明しています。
一般原則である民法上の法定利率
民法上の法定利率は、民法第404条に規定されています。
§民法
(法定利率)
第404条 利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は、年5分とする。
民法上の法定利率は、年5分(5%)です。
100万円の支払いが、本来の支払日から1年間履行されなかった場合の遅延損害金は、5万円(=100万円×5%)になります。
民法上の法定利率は一般原則となりますので、他の法律などで特別な規定がされていない場合は、民法上の法定利率が適用されます。
商法上の法定利率(商事法定利率)は、商行為によって生じた遅延損害金に適用される
商法上の法定利率(商事法定利率)は、商法第514条に規定されています。
§商法
(商事法定利率)
第514条 商行為によって生じた債務に関しては、法定利率は、年6分とする。
商事法定利率は、年6分(6%)です。
商事法定利率は、民法上の法定利率の特別規定であり、不履行となっている金銭債務が「商行為によって生じた債務」である場合に、商事法定利率で遅延損害金を計算します。
原則として、会社が従業員と雇用契約を締結することは商行為(附属的商行為)に該当します。
そのため、賃金の支払いは「商行為によって生じた債務」となり、もし支払期日までに賃金が支払われなかった場合は、年6%で遅延損害金を計算します。
また、「商行為によって生じた債務の不履行による損害賠償義務」も商事法定利率の年6%が適用されます。
例えば、パワハラを受けた労働者が、会社の安全配慮義務(労働契約法第5条)違反を理由に精神的苦痛に対する慰謝料を請求する場合、その支払いが履行がされるまでの遅延損害金をあわせて請求するのが一般的です。
この慰謝料の支払いは、「商行為(=雇用契約)によって生じた債務(=安全配慮義務)の不履行による損害賠償義務(=慰謝料の支払い義務)」にあたります。
そのため、この慰謝料の支払いに対する遅延損害金には、商事法定利率の年6%が適用されることになります。
一方、「不法行為によって生じた損害賠償義務」には商事法定利率は適用されません。
不法行為は商行為には該当しないためです。
したがって、不当解雇(=不法行為)に対して慰謝料を請求する場合や、パワハラに対する慰謝料請求であっても、「安全配慮義務違反という債務不履行」に対して損害賠償請求(民法第415条)を行うのではなく、「パワハラという不法行為」に対して損害賠償請求(民法第709条)を行う場合には、その支払いが履行されるまでの遅延損害金は、民法の規定に基づいて年5%で計算します。
(関連:パワハラに対して損害賠償請求したい!その法的根拠はどこにある?)
なお、学校法人や医療法人など、営利を目的としない事業者(商法上の商人にあたらない事業者)との雇用契約の場合は、商事法定利率の適用はありません。
この場合は賃金の支払い債務不履行であっても、民法の規定に基づき年5%で遅延損害金を計算することになります。
退職後の未払い賃金は年14.6%の遅延利息の支払いが必要になる
最後は、退職後の未払い賃金に適用される利率です。「賃金の支払の確保等に関する法律」の第6条では次のように規定されています。
§賃金の支払の確保等に関する法律
(退職労働者の賃金に係る遅延利息)
第6条 事業主は、その事業を退職した労働者に係る賃金(退職手当を除く。以下この条において同じ。)の全部又は一部をその退職の日(退職の日後に支払期日が到来する賃金にあつては、当該支払期日。以下この条において同じ。)までに支払わなかつた場合には、当該労働者に対し、当該退職の日の翌日からその支払をする日までの期間について、その日数に応じ、当該退職の日の経過後まだ支払われていない賃金の額に年14.6パーセントを超えない範囲内で政令で定める率を乗じて得た金額を遅延利息として支払わなければならない。2 前項の規定は、賃金の支払の遅滞が天災地変その他のやむを得ない事由で厚生労働省令で定めるものによるものである場合には、その事由の存する期間について適用しない。
本条は、退職後の未払い賃金に対する遅延利息(=遅延損害金)の特別規定です。
不履行となっている金銭債務が退職金以外の賃金である場合、退職日の翌日以降は年14.6%で遅延利息を請求することができます。
ただし、賃金の支払期日がもともと退職日より後だった場合は、支払期日の翌日から年14.6%での計算になります。
民法や商法の法定利率に比べてものすごく高い利率ですね。
なお、退職日までは、商法の適用がある場合は年6%、商法の適用がない場合は年5%で遅延損害金を計算します。
民法と商法の法定利率は、それぞれ法定利率のみが規定されていたのに対し、本条では、退職後の未払い賃金に対する遅延利息の支払い義務そのものが規定されているため、民法の損害賠償請求の規定に基づくことなく、この規定だけで遅延利息を請求することができます。
また、民法の遅延損害金の場合と異なり、天災地変その他のやむを得ない事由で賃金の支払いが遅滞となっている場合は、その理由が存在する期間に限り、年14.6%での遅延利息の計算はされません。