36協定の中小企業への適用猶予の判断は派遣元?派遣先?派遣労働者に改正労働基準法を適用する際のポイント

平成31年4月1日から「時間外労働の罰則付き上限規制」や「年次有給休暇の年5日の取得義務」などが盛り込まれた改正労働基準法と改正労働安全衛生法が施行されます。

「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」(労働者派遣法)により、派遣労働者は労基法や安衛法の適用については一部特例が設けられているため、労働者派遣を行っている「派遣元」の会社や派遣労働者を受け入れている「派遣先」の会社は対応に留意が必要です。

ここでは、次の4つのポイントについて派遣労働者への改正法の適用について解説します。

  • 「時間外労働の罰則付き上限規制」の中小企業への適用猶予は派遣元と派遣先のどちらで判断する?
  • 「月100時間未満」「月平均80時間以内」の上限規制は派遣元と派遣先のどちらに適用される?
  • 年次有給休暇の年5日の取得義務は派遣元と派遣先のどちらが負う?
  • タイムカード等の客観的記録に基づく労働時間の把握義務は派遣元と派遣先のどちらが負う?

「時間外労働の罰則付き上限規制」の中小企業への適用猶予は「派遣先」の事業規模で判断する

労働者派遣法第44条第2項により、労基法第36条第1項は派遣先の事業のみが派遣中の労働者を使用する事業とみなされて適用され、次のように読み替えが行われます。

§労働基準法(派遣法第44条第2項による読み替え後)

第36条第1項 使用者は、当該事業場に派遣元の使用者が、当該派遣元の事業の事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、協定をし、及び厚生労働省令で定めるところによりこれを行政官庁に届け出た場合においては、第32条から第32条の5まで若しくは第40条の労働時間(以下この条において「労働時間」という。)又は前条の休日(以下この条において「休日」という。)に関する規定にかかわらず、その協定で定めるところによつて労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる。

本条により、派遣先は、「派遣元が締結・届出した36協定」に基づいて派遣労働者に対して時間外労働又は休日労働を行わせることができます。

また、中小企業の適用猶予は、「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」(働き方改革関連法)附則第2条及び第3条に規定されています。

§働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律

(時間外及び休日の労働に係る協定に関する経過措置)
附則第2条 第1条の規定による改正後の労働基準法(以下「新労基法」という。)第36条の規定(新労基法第139条第2項、第140条第2項、第141条第4項及び第142条の規定により読み替えて適用する場合を含む。)は、平成31年4月1日以後の期間のみを定めている協定について適用し、同年3月31日を含む期間を定めている協定については、当該協定に定める期間の初日から起算して1年を経過する日までの間については、なお従前の例による。

(中小事業主に関する経過措置)
附則第3条 中小事業主(その資本金の額又は出資の総額が3億円(小売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については5000万円、卸売業を主たる事業とする事業主については1億円)以下である事業主及びその常時使用する労働者の数が300人(小売業を主たる事業とする事業主については50人、卸売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については100人)以下である事業主をいう。第4項及び附則第11条において同じ。)の事業に係る協定(新労基法第139条第2項に規定する事業、第140条第2項に規定する業務、第141条第4項に規定する者及び第142条に規定する事業に係るものを除く。)についての前条の規定の適用については、「平成31年4月1日」とあるのは、「平成32年4月1日」とする。

派遣法第44条第2項によって労基法第36条(第1項)は派遣先の事業のみが派遣労働者を使用する事業とみなされているため、中小企業主の判断も派遣先の事業規模を基準に判断することになります。

中小企業の判断は「派遣先」の事業規模で行いますが、36協定の締結・届出を行うのは「派遣元」であることに留意してください。

「月100時間未満」「月平均80時間以内」の上限は「派遣先」に適用される

労働者派遣法第44条第2項により、労基法第36条第6項も派遣先の事業のみが派遣中の労働者を使用する事業とみなされて適用されます。

§労働基準法

第36条第6項 使用者は、第1項の協定で定めるところによつて労働時間を延長して労働させ、又は休日において労働させる場合であつても、 次の各号に掲げる時間について、当該各号に定める要件を満たすものとしなければならない。

  1. 坑内労働その他厚生労働省令で定める健康上特に有害な業務について、1日について労働時間を延長して労働させた時間  2時間を超えないこと。
  2. 1箇月について労働時間を延長して労働させ、及び休日において労働させた時間  100時間未満であること。
  3. 対象期間の初日から1箇月ごとに区分した各期間に当該各期 間の直前の1箇月、2箇月、3箇月、4箇月及び5箇月の期間 を加えたそれぞれの期間における労働時間を延長して労働させ 、及び休日において労働させた時間の1箇月当たりの平均時間  80時間を超えないこと。

したがって、「月100時間未満」「月平均80時間以内」の上限規制については「派遣先」が責任を負います。

派遣元は本条の上限規制が直接適用されませんが、労働者派遣法第44条第3項により、労働者派遣契約に定めた条件で労働させると本条違反に抵触することとになる場合には労働者派遣を行うことが禁止されています。

年5日の年次有給休暇の取得義務は「派遣元」が負う

労基法第39条の年次有給休暇に関する規定は労働者派遣法による読み替えが行われません。

したがって、年10日以上の年次有給休暇が与えられている労働者について毎年5日の年次有給休暇を取得させる義務を負うのも、本来の使用者である「派遣元」となります。

タイムカード等の客観的記録に基づく労働時間の把握義務は「派遣先」が負う

労働安全衛生法第66条の8の3により、事業者はタイムカードなどの客観的記録に基づいて労働時間を把握することが義務付けられますが、労働者派遣法第45条第3項により、本条は、派遣先を派遣中の労働者を使用する事業者と、派遣中の労働者を派遣先に使用される労働者とそれぞれみなして適用され、また、次のような読み替えが行われます。

§労働安全衛生法

第66条の8の3 事業者は、第66条の8第1項派遣元の事業(労働者派遣法第44条第3項に規定する 派遣元の事業をいう。)の事業者が、第66条の8第1項又は前条第1項の規定による面接指導を実施するため、厚生労働省令で定める方法により、労働者(次条第1項に規定する者を除く。)の労働時間の状況を把握しなければならない。

派遣先が事業者、派遣労働者がその労働者としてそれぞれみなされるため、労働時間の把握義務を負うのは「派遣先」となります。

一方、本条は、長時間労働者に対する医師の面接指導を実施するためにタイムカードなどの客観的記録に基づく労働時間把握を義務付けたものですが、面接指導の実施義務については読替がなく、本来の使用者である「派遣元」が実施義務を負います。

したがって、派遣労働者については、「派遣先」が労働時間を把握する義務を負い、その結果に基づいて「派遣元」が医師の面接指導を実施することになります。