労働基準法や労働安全衛生法の規定の中には、一定以上の規模の事業場のみが適用対象となるものがあります。
事業場規模の判断基準となるのが「常時使用する労働者」の人数です。
例えば、労基法第89条は、常時10人以上の労働者を使用する使用者に対して就業規則を作成して所轄労働基準監督署長に届け出ることを義務付けています。
また、安衛法では常時使用する労働者が50人以上の事業場について、安全管理者(一部の業種のみ)、衛生管理者、産業医の選任や安全衛生委員会(衛生委員会)の設置などの安全衛生管理体制を整備することを義務付けています。
ただ、実務においては「常時使用する労働者」の範囲が正しく理解されておらず、思わぬ法違反を指摘されてしまうケースが少なくありません。
「常時使用する労働者」とは、どのような労働者を指しているのでしょうか。
日雇い労働者やパートであっても常時使用する労働者に含まれる
常時使用する労働者とは、通常の事業運営を行っていくために雇用している労働者を指します。
通達(昭和47.9.18基発第602号)においては、安衛法施行令第2条の総括安全衛生管理者を選任すべき事業場について「日雇労働者、パートタイマーの臨時的労働者の数を含めて、常態として使用する労働者の数が本条各号(=安衛法施行令第2条)に掲げる数以上であること」と示されています。
したがって、通常業務を行っていくために使用している労働者であれば、正社員だけでなく日雇い労働者やパートタイマーなどの有期契約労働者も「常時使用する労働者」に含まれます。 次のような理由は全て常時使用する労働者から除外する理由とならないことに注意が必要です。
- 日雇い労働者である
- 有期契約である
- 1日の労働時間が短い
- 週の所定労働日数が少ない
- 社会保険や雇用保険に加入していない
ポイントは、常時使用する労働者が「事業場規模」の判断基準となっていることです。
ライン製造の工場の場合、正社員は工場長などの数名のみで100人以上のパートタイマーやアルバイトが流れ作業に従事しているということが珍しくありませんが、パートタイマーを除外することになれば、100人以上のパートタイマーを使用している工場と社員が5名しかいない下町の町工場が「同規模の事業場」と判断されることになり、正しく事業場規模を判断できているとは言えないでしょう。
一方、「常態として使用」していない労働者、例えば、繁忙期などに一時的に雇用される労働者は、常時使用する労働者に含まれません。
派遣労働者は派遣先会社の常時使用する労働者に原則含まないが例外的に含まれる場合も
派遣労働者は、派遣元会社の労働者のため、原則として派遣先会社における「常時使用する労働者」の人数には含まれません。
ただし、労働者派遣法(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律)の読み替え規定によって派遣先会社の労働者とみなされることとされているものについては、派遣先会社における「常時使用する労働者」の人数に含める必要があります。
派遣先会社の労働者とみなされるのは、安全管理者、衛生管理者及び産業医の選任、安全衛生委員会(衛生委員会)の開催など、主に派遣先会社の安全衛生管理体制に関する規定です。
労働者の安全衛生管理は雇用事業主(派遣元会社)が実施するのが原則ですが、現場の安全衛生管理は実際に業務に従事することになる派遣先会社で講じる必要があるため、上記のような読み替えが行われています。
定期健康診断の実施対象となる「常時使用する労働者」とは
もう一つ留意しなければならないのが、定期健康診断の実施対象となる「常時使用する労働者」です。 安衛法第44条は、定期健康診断の実施について次のように規定しています。
§労働安全衛生法
(定期健康診断)
第44条 事業者は、常時使用する労働者(第45条第1項に規定する労働者を除く。)に対し、1年以内ごとに1回、定期に、次の項目について医師による健康診断を行わなければならない。 (略)
本条における「常時使用する労働者」は、定期健康診断の実施対象の範囲を示すものとして用いられていて、事業場規模を示すためのものではありません。
そのため、「常時使用する労働者」の定義も前述のものと異なります。 定期健康診断を実施すべき「常時使用する労働者」は、通達(平成19年10月1日基発第1001016号)により次のいずれもの要件を満たす者とされています。
- 期間の定めのない契約により使用される者。期間の定めのある契約により使用される者の場合は、1年以上使用されることが予定されている者、及び更新により1年以上使用されている者。
- その者の1週間の労働時間数が当該事業場において同種の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間数の4分の3以上であること。(2分の1以上である者に対しても実施するのが望ましい。)
こちらは、常態として使用している者であるかどうかではなく、いわゆる正社員(フルタイム労働者)とパート労働者の違いと言えます。
事業場規模の判断基準となる場合と定期健康診断の実施対象となる場合で「常時使用する労働者」の定義が異なることに注意してください。