平成31年4月1日から施行される労働基準法の改正によって、フレックスタイム制の清算期間の上限が、現行の1か月から3か月に拡大されます。
これまでよりも柔軟な労働時間の配分が可能となり働き方の幅が広がることが期待されますが、時間外労働の計算には十分注意しなければなりません。
フレックスタイム制で1か月を超える清算期間を定める場合、どのような点に留意しなければならないでしょうか。
フレックスタイム制における時間外労働の計算方法
フレックスタイム制などの変形労働時間制を導入していない場合、原則として1日8時間又は週40時間(特例措置事業場は44時間)を超えて行った時間が時間外労働となります。
しかし、フレックスタイム制を導入した場合は、1日又は週の労働時間数とは関係なく、清算期間を通じて週平均40時間(特例措置事業場は44時間)を超える労働を行った場合に、その超えた時間が時間外労働として取り扱われます。
例えば、9月1日から9月30日までの1か月間を清算期間とした場合、清算期間(30日間)を通じて週平均40時間となる時間は約171時間(=30日÷7日×40時間)となり、1日又は1週間の労働時間とは関係なく清算期間終了時において約171時間を超えていた時間が時間外労働として取り扱われます。
法改正後において1か月を超える清算期間を定めることができるようになった後も、清算期間を通じて週平均40時間(特例措置事業場は44時間)を超える時間が時間外労働として取り扱われることに変わりはありません。
ただし、清算期間を1か月ごとに区分した各期間において週平均50時間を超える労働を行った場合には、その超えた時間はその月の時間外労働として取り扱われ、清算期間の終了時における時間外労働の計算から除外されます。
最終月の時間外労働として計上される時間が大幅に増加するおそれ
1か月を超える清算期間を定めた場合に注意しなければならないのが、各月において週平均50時間を越えなかった時間がすべて「最終月の時間外労働」の計算対象となってしまうことです。
そのため、最終月の時間外労働時間が大幅に増加してしまう可能性があります。
例えば、9月1日から11月30日までの各月に210時間(3か月合計630時間)の労働を行ったとします。 従来通りに清算期間を1か月とした場合は、各月における時間外労働は次のようになります。
- 9月 ⇒ 39時間(=210時間-171時間)
- 10月 ⇒ 33時間(=210時間-177時間)
- 11月 ⇒ 39時間(=210時間-171時間)
各月の時間外労働は33~39時間で、時間外労働の限度時間である「月45時間」に収まっています。
一方、同じ労働時間数であっても、9月1日から11月30日までの3か月を清算期間とした場合は各月の時間外労働は次のようになります。
- 9月 ⇒ 時間外労働なし(214時間を超えていない)
- 10月 ⇒ 時間外労働なし(221時間を超えていない)
- 11月 ⇒ 110時間(=630時間-520時間)
通常であればそれぞれの月ごとに時間外労働時間となっていた時間が、すべて最終月である11月の時間外労働として計上されてしまっています。
その結果、11月の時間外労働は100時間を超えており、労基法の改正後においては「月100時間未満」の上限に違反してしまいます。
また、月60時間を超える時間外労働に対しては、50%の割増賃金率で計算した時間外手当を支払わなければなりません(中小企業は平成35年4月から適用)。
清算期間の途中に退職した場合などは時間外手当の清算が必要
退職等によって清算期間の途中でフレックスタイム制の対象外となった場合には、勤務期間を平均して週平均40時間を超える時間に対して時間外手当を支払う必要があることにも留意してください(労基法第32条の3の2)。
§労働基準法
(フレックスタイム制における清算)
第32条の3の2 使用者が、清算期間が1箇月を超えるものであるときの当該清算期間中の前条第1項の規定により労働させた期間が当該清算期間より短い労働者について、当該労働させた期間を平均し1週間当たり40時間を超えて労働させた場合においては、その超えた時間(第33条又は第36条第1項の規定により延長し、又は休日に労働させた時間を除く。)の労働については、第37条の規定の例により割増賃金を支払わなければならない。
なお、従来から、1年単位の変形労働時間制において同様の規定が設けられています(労基法第32条の4の2)。
§労働基準法
(1年単位の変形労働時間制における清算)
第32条の4の2 使用者が、対象期間中の前条の規定により労働させた期間が当該対象期間より短い労働者について、当該労働させた期間を平均し1週間当たり40時間を超えて労働させた場合においては、その超えた時間(第33条又は第36条第1項の規定により延長し、又は休日に労働させた時間を除く。)の労働については、第37条の規定の例により割増賃金を支払わなければならない。
フレックスタイム制は労働者に労働時間の配分を委ねる必要があり、会社は原則としてコアタイム(勤務しなければならない時間)やフレキシブルタイム(勤務することができる時間)の設定によって労働時間をコントロールしなければなりません。
必ずしも会社が意図するような労働時間配分を労働者がしてくれるとは限りませんので、長期間の清算期間を定めるフレックスタイム制は、運用上のリスクが大きく労働時間管理も難しい制度と言えます。
長期間の清算期間を定めたフレックスタイム制の導入は十分な検討を行ったうえで行うようにしましょう。