割増賃金、平均賃金、社会保険・・・、それぞれの計算から除外される賃金は?

会社から社員に支払われている賃金は、労務管理を行っていく上で様々な計算に用いられます。

  1. 割増賃金(残業代や休日手当の単価)
  2. 最低賃金
  3. 平均賃金
  4. 社会保険料(健康保険、介護保険、厚生年金)の標準報酬月額
  5. 労働保険料(労災保険、雇用保険)の年度更新

これらの計算を行う際、手当の種類や内容によっては、計算の基礎となる賃金から除外される場合がありますが、計算するものによって除外される賃金は異なります。 それぞれどの手当が計算から除外されるのかを整理してみましょう。

割増賃金の基礎から除外される賃金

労働基準法第37条に規定されている割増賃金(時間外手当、休日手当、深夜手当)は、時給換算した賃金額に法定の割増率を乗じたものが1時間当たりの金額になります。

このとき、次のいずれかに該当する賃金は、割増賃金の基礎となる賃金から除外することが出来ます。

【割増賃金の基礎から除外される賃金】
  1. 家族手当
  2. 通勤手当
  3. 別居手当
  4. 子女教育手当
  5. 住宅手当
  6. 臨時に支払われた賃金
  7. 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)

割増賃金の基礎から除外できる手当は「限定列挙」されているため、上記以外の手当は割増賃金の算定基礎に含める必要があります。

扶養家族の人数や家賃額など、業務と直接関係ない部分に基づいて支払われている手当(1~5)が除外されているのが特徴です。

ただし、これらの手当名目で支給されていても、扶養家族の人数や家賃額などに関係なく一律で支給されているような場合には、基本給の一部とみなされて割増賃金の基礎から除外することは出来ません。

臨時に支払われた賃金とは、臨時的、突発的理由に基づいて支払われたものや、支給要件が確定しているが支給要件の発生が不確定かつごく稀に発生するものをいいます。

例えば、結婚祝金や退職金などが臨時に支払われた賃金(支給要件が確定しているが支給要件の発生が不確定かつごく稀に発生する賃金)に該当します。

最低賃金の計算から除外される賃金

賃金額が最低賃金を上回っているかどうかを見るときは、次の賃金が計算から除外されます。

【最低賃金の計算から除外される賃金】
  1. 臨時に支払われる賃金
  2. 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
  3. 割増賃金(時間外手当、休日手当、深夜手当)
  4. 皆勤手当・精勤手当
  5. 通勤手当
  6. 家族手当

皆勤手当や精勤手当が除外されていることと、住宅手当は除外されていないことがポイントです。

平均賃金

労働基準法第12条で定められている平均賃金を計算する際は、次の賃金が計算から除外されます。

【平均賃金の計算から除外される賃金】
  1. 臨時に支払われた賃金
  2. 3か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)

割増賃金の基礎の計算と最低賃金の計算では、「1か月を超える期間ごとに支払われる賃金」が除外されていましたが、平均賃金は「3か月を超える期間ごとに支払われる賃金」が除外されます。

平均賃金は、原則として直近3ヶ月の賃金支給実績に基づいて計算されますので、基本給や家族手当などの固定給だけでなく、割増賃金や歩合給などの変動給も計算に含まれます。 そのため、平均賃金は、計算するタイミングによって大きく金額が異なります。

社会保険料(健康保険、介護保険、厚生年金)の標準報酬月額

社会保険料(健康保険、介護保険、厚生年金)の標準報酬月額を計算する際は、次の賃金が計算から除外されます。

【社会保険料の標準報酬月額の計算から除外される賃金】
  1. 年3回まで支給されるもの(賞与など)
  2. 臨時に支払われた賃金(結婚祝い金や死亡弔慰金など)

社会保険料の標準報酬月額は、原則として毎年4~6月の3ヶ月間に支払われた賃金額に基づいて計算され、この期間中に支払われたものであれば、割増賃金や歩合給などの変動給も計算に含まれます。

賞与は、原則として計算に含まれませんが、年4回以上支給する場合は含まれます。(1か月当たりの金額に換算します。)

なお、年3回までしか支給されておらず、標準報酬月額の計算に含まれなかった賞与は、賞与の支払いごとに別途社会保険料の納付が必要となります。

年3回までの支給と年4回以上の支給のどちらであっても、賞与に対する社会保険料の納付は必要ということですね。

労働保険料(労災保険、雇用保険)の年度更新

労働保険料(労災保険、雇用保険)の年度更新(保険料計算)を行う際は、次の賃金が計算から除外されます。

【労働保険料の年度更新から除外される賃金】
  1. 臨時に支払われた賃金(結婚祝い金や死亡弔慰金など)

労働保険料の計算で除外される賃金は、臨時に支払われた賃金のみです。

計算から除外される賃金の早見表

上記5つの計算においてそれぞれ計算に含まれる賃金と含まれない賃金を整理すると下表のようになります。

賃金の種類 割増賃金の基礎 最低賃金 平均賃金 社会保険料 (標準報酬月額) 労働保険料 (年度更新)
基本給
家族手当 × ×
通勤手当 × ×
別居手当 ×
子女教育手当 ×
住宅手当 ×
皆勤手当 ×
上記以外の手当
割増賃金 --- ×
賞与 △ (1ヶ月超ごとに支払われるもの) △ (1ヶ月超ごとに支払われるもの) △ (3ヶ月超ごとに支払われるもの) △ (年3回まで支給されるもの)
臨時に支払われる賃金 × × × × ×

◯:含まれる  △:原則として含まれない  ×:含まれない

なお、今回は、標準報酬月額と労働保険料の計算から除外できる賃金として、結婚祝い金や死亡弔慰金などを「臨時に支払われる賃金」としてまとめましたが、標準報酬月額と労働保険料の計算から除外できる「臨時に支払われる賃金」は、割増賃金、最低賃金、平均賃金の計算から除外できる「臨時に支払われる賃金」の範囲とは必ずしも一致しませんのでご注意ください。