通勤手当は、多くの会社で支払われている代表的な手当の一つです。
昨今、交通機関の高速化が進み、新幹線などを利用して遠距離からの通勤を行う人が増えています。
平成28年1月には通勤手当の非課税限度額が10万円から15万円に引き上げられ、より遠距離通勤がしやすくなりました。
郊外に家を買って遠距離通勤をすることを考えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
通勤手当の金額は労務管理上の様々な計算に影響する
通勤手当は、通勤に要する費用に対して実費弁償的に支払われるものであり、定期券の購入などで支給額に相応した支払いが必要となります。
しかし、通勤手当は、賃金の一部として労務管理上の様々な計算に影響を与えることになるため、通勤手当が支払われている従業員と支払われていない従業員では手取り額をはじめいろいろな面で差が生じてきます。
では、遠距離からの通勤で多くの通勤手当が支払われている場合と、近距離からの通勤でほとんど通勤手当が支払われていない場合では、どのような違いがあるのでしょうか。
通勤手当が影響するものと影響しないもの
ほかの賃金条件や労働条件が同じである場合で、月10万円の通勤手当が支払われている従業員Aさんと徒歩通勤で通勤手当が支払われていない従業員Bさんを比較してみましょう。
社会保険料(健康保険・介護保険・厚生年金)
社会保険料額を計算する際の基礎となる「標準報酬月額」は、原則として4~6月に支払われた賃金の平均額によって決められますが、この賃金の中には通勤手当も含めて計算します。
そのため、AさんはBさんよりも標準報酬月額が高くなり、手取り額が月当たり約14,000円少なくなります。
一方、ケガや病気で休業することになった場合に支給される傷病手当金や、産前産後休業で支給される出産手当金の額は、Aさんの方が1日当たり約2,200円多くなります。
また、将来受け取ることが出来る老齢厚生年金や障害を負ったときに支給される障害厚生年金などもAさんの方が多くなります。
雇用保険
雇用保険料は、その月の賃金額に雇用保険料率を乗じて算出しますが、この賃金に通勤手当は含めて計算します。
その結果、Aさんの雇用保険料の本人負担額は、Bさんよりも約400円多く(賃金手取り額が少なく)なります。 一方、離職後の求職期間中に支払われる基本手当(失業手当)は、原則としてAさんの方が多くなります。
時間外労働、休日労働および深夜労働の割増賃金(残業代)
労働基準法第37条で支払いが義務付けられている時間外労働、休日労働および深夜労働に対する割増賃金は、通常支払われている賃金の時間換算額に法定の割増率を乗じて算出します。
割増賃金の計算基礎となる賃金に、通勤手当は含まれません。
そのため、AさんとBさんがそれぞれ時間外労働を行ったときに支払われる1時間当たりの割増賃金(残業代)は、同じになります。
通勤時間がかかる分だけ残業時間が少なくなるようであれば、その分手取り額の減少につながります。
平均賃金(労災保険の給付基礎日額)
労働基準法第12条に規定されている平均賃金は、原則として、直近3ヶ月間に支払われた賃金額から計算しますが、この賃金額に通勤手当は含めて計算します。
平均賃金は、解雇予告手当や休業手当を算出する際の基礎として用いられるため、これらの手当が支払われることになった場合(予告なく解雇される場合や会社都合で休業する場合)には、Aさんの方が、Bさんよりも多くの金額の支払いがされることになります。
また、平均賃金は、労災保険の給付額を決定する基礎となる「給付基礎日額」としても用いられています。
そのため、業務中や通勤中のケガや病気などによって休業したり障害を負ったりしたときに労災保険から支給される金額は、Aさんの方が、Bさんよりも多くなり、休職中の賃金保障として支払われる休業(補償)給付(特別支給金を含む)であれば、1日当たりの支給額が約2,600円多くなります。
パート労働者の社会保険加入
被保険者数が501人以上の会社で勤務しているパート労働者の社会保険の加入要件の一つに、「賃金が月額8万8000円以上」という要件(いわゆる「106万円の壁」)がありますが、この賃金に、通勤手当は含まれません。
そのため、通勤手当の違いによるパート労働者の社会保険の加入の是非への影響はありません。
通勤手当の金額が多くなると、社会保険料負担額の影響で手取り賃金は少なくなることが多いです。
住む場所を考えるときは、通勤距離や通勤時間だけではなく通勤手当による手取り賃金の影響も考慮しておきましょう。